2019年12月21日

不穏と不条理と混沌と 「ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜」


drhoffmann.jpg「失踪者」「審判」「城」といういずれも未完の長編小説を遺して1924年に40歳で早世した作家 フランツ・カフカ.、
カフカを敬愛するケラリーノ・サンドロヴィッチさんが、「カフカの4作目の長編小説の遺稿が発見されたとしたら・・・」という発想から描いた物語。
タイトルの「ドクター・ホフマンのサナトリウム」は、カフカが最後の数ヵ月を過ごした療養所の名前だそうです。


「ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術: 松井るみ  照明: 関口裕二
音楽: 水越佳一  振付: 小野寺修二  映像:上田大樹
音楽: 鈴木光介
演奏: 鈴木光介(Tp) 向島ゆり子/高橋香織(Vn) 伏見蛍(Gt) 関根真理(Per)
出演: 多部未華子  瀬戸康史  音尾琢真  大倉孝二  村川絵梨  
犬山イヌコ  緒川たまき  渡辺いっけい  麻実れい ほか

2019年11月30日(土) 5:30pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 
1階F列(5列目)センター  (上演時間: 3時間30分/休憩 15分)



幕開きは列車の中。
出兵間近の婚約者ラバン(瀬戸康史)と旅する途中ではぐれてしまったカーヤ(多部未華子)は、ラバンの戦死を信じることができず、真実を確かめるべく戦地に向かい・・・というシーンから始まりますが、実はこれはカフカが書いた「第4の長編」の中のお話。
カフカが晩年、公園で散歩中にぬいぐるみを探す少女と出会ったエピソードがあって、当時4歳だった少女が100歳となった老女(麻実れい)を祖母に持つブロッホ(渡辺いっけい)は、カフカの長編未発表原稿を手に入れ、出版社に売ろうとしますが、親友(大倉孝二)とともにカフカが生きていた時代に迷い込んでしまいます・・・。


カフカの小説の中の世界と2019年の現実世界、そしてカフカ最晩年の1923年のドイツ-3つの世界が時空を交錯して描かれます。
くるくると入れ替わりながら展開し、次第に影響し合っていく混沌とした3つの世界。
役者さんもそれぞれの世界で役を兼ねることになりますが、計算しつくされた緻密な脚本、構成と演出で、観ている方は自分が今どこにいるのか混乱することなく心地よくその世界に浸ることができます。
そして、物語全体を覆う、ひたひたと何かが迫りくるような不穏な空気感。

物語としては、カーヤが次々と不条理な出来事に翻弄されながら旅するカフカの作品世界が、様々な人々に出会ったり、ミステリアスな展開もあってやはり惹きつけられました。


相変わらず凛とした真っ直ぐな視線とよく通る声が印象的な多部未華子さん。
次々と降りかかる出来事に翻弄され、険しい表情を浮かべながらも強くたくましく生き抜くカーヤが清々しい。

カフカ本人をはじめ何役かを担う瀬戸康史さん。
ラパンと双子の弟の、くるりと双面を付け替えるような演じ分けがお見事でした。
ほんと、どっちなの?!

とてもさり気なく、現代の「ちょっとしょぼくれた普通の男」を描出してみせた渡辺いっけいさんもとてもよかったです。
現実世界で、いっけいさん、大倉くんにイヌコさんを交えた3人のコミカルな、でもちょっと噛み合わない掛け合いが楽しく、そこに加わる麻実れいさん演じる”魔法が使えるおばあさん“がとてもいい味。
カフカが生きていた世界に迷い込んで、ぬいぐるみを見つけちゃったからカフカと少女が出会わなくなると焦って何とかしようと画策したり、1923年のカフカの描く作品の中に足跡を残したりするの、おもしろかったな。

それにつけても麻実れいさんの振り幅の大きさ。
ちょっと認知症気味の100歳のおばあさんかと思えば無邪気な4歳の女の子にもなるし、何といっても、戦場の師団長の奥様の得も言われぬ妖しさと倦怠感とサディスティックな雰囲気。
個性的で上手い役者さん揃いの中にあって、存在感が際立っていました。

緒川たまきさん、音尾琢真さん、村川絵梨さんともちろん周りも盤石。
多部未華子さんのカーヤはじめカフカの世界の役者さんたちはゴシック調のメイクを施していて(ケラさんの作品でいえば「修道女たち」もそうでした)、それがこの作品の虚構感や厭世観を一層際立たせていたと思います。


階段をいくつも重層的に重ねたような舞台装置。
そこに時折薄い紗幕が下りてきて、映像が映し出されたり、場面によっては照明の効果で向こう側が透けて見えたり、見えなくなったり、スタイリッシュで凝った演出。
ケラさんといえば、なオープニグの役者紹介の映像のカッコよさも一段とソフィスティケイトされた印象でした。
時には哀切に、またある時は賑やかに奏でられる生演奏のバンドは演技にもからむ趣向。


ラストは今もちょっと考えています。
カフカがユダヤ人だったことをふまえてのケラさんのメッセージだったのかな。




カフカといえば「変身」しか読んだことありません のごくらく地獄度 (total 2049 vs 2053 )
posted by スキップ at 22:49| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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