2019年07月09日

走れ光太夫 振り返るな 三谷かぶき 「月光露針路日本」 風雲児たち


走れ光太夫 振り返るなよ
月あかり照らすふるさと 伊勢の海
走れ光太夫 泣くな光太夫

10年にわたる艱難辛苦の末、故郷日本へと舵を取る大黒屋光太夫。
そこに重なる三味線に乗せた浄瑠璃が今も耳に残ります。


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松本幸四郎(当時 市川染五郎)さんが三谷幸喜さんに「ぜひ歌舞伎を書いてください」とお願いして実現したPARCO歌舞伎 「決闘! 高田馬場」が上演されたのが2006年(感想はこちら・・・この頃の自分のレポ読み返して短さに驚く。簡潔だったなぁ)。
上演中からすでに「次は○○をやりたいね」というお話が、三谷さんと幸四郎さん、猿之助(当時 亀治郎)さんとの間で出ていたということですが、13年の時を経て、やーっと実現しました。
それも歌舞伎座でっ!


六月大歌舞伎 夜の部
三谷かぶき 「月光露針路日本」 (つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち
原作: みなもと太郎
作・演出: 三谷幸喜
美術: 堀尾幸男  照明: 服部基  衣装: 前田文子
出演: 松本幸四郎  市川猿之助  片岡愛之助  尾上松也  八嶋智人
坂東新悟  大谷廣太郎  中村種之助  市川染五郎  市川弘太郎  中村鶴松  
片岡松之助  片岡千次郎  片岡松十郎  市川寿猿  澤村宗之助  松本錦吾  
市川男女蔵  市川高麗蔵  坂東竹三郎  坂東彌十郎  松本白鸚 ほか

2019年6月6日(木) 4:30pm 歌舞伎座 3階2列下手/
6月25日(火) 1階2列センター
(上演時間: 3時間42分/幕間 30分・20分)



鎖国によって外国との交流が厳しく制限され、徳川幕府の政策により1本マストの帆船しか許されなかった江戸時代の物語。
大黒屋光太夫(幸四郎)は、神昌丸の船頭として16人の乗組員たちとともに伊勢を出帆しますが、江戸に向かう途中で激しい嵐に見舞われて帆を折り、大海原を漂流した挙句、ロシア領アリューシャン列島のアムチトカ島へと流れ着きます。仲間が一人また一人と命を落としていく中、日本に帰る方策を求めて、カムチャッカ、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西へ西へと移り住み、ついにサンクトペテルブルグで女帝 エカテリーナ(猿之助)と謁見し帰国の許しを得て、実に10年の時を経て日本へ帰り着くまでを描きます。


三谷流の遊び心たっぷりで、随所に散りばめられた笑いにあははと盛り上がりながら、過酷な運命に立ち向かう人々の苦悩のドラマが終盤胸に迫ります。

最初は船頭として自信なげで頼りなかったのに、「絶対に全員で生きて日本に帰る」という強い意志を持って仲間を鼓舞するリーダーに成長する光太夫はじめ、仲間の乗組員たちのキャラクターが立っていて、いかにも三谷さんらしい群像劇。
転々とする各地でエピソードが織り込まれてロードムービーっぽくて、「そういえば『決闘! 高田馬場』もこんな感じだったなぁ」と思い出したりも。


状況と人物紹介的な船上から一転、アムチトカ島の場面では、舞台奥に柱のようなものが建っていて、「あれは何かしら?」と思っていたら、三五郎(白鸚)たち5人が亡くなったという台詞があって、「墓標だったんだ」と。過酷な暮らしぶりが偲ばれます。自分は食べ物を口にせず仲間の食事をつくり続け、「かまどの火を絶やさないで」と言い残して死んでしまう与惣松(種之助)が切ない。

染五郎くん扮する磯吉がみんなにロシア語を教える場面も楽しかったし、ロシア人の恋人 アグリッピーナ(高麗蔵)とのラブラブ&お別れ場面も楽しかったです。
アグリッピーナ磯吉 絶対年増女に美少年がたぶらかされてるようにしか見えないのだけど(笑)、恋に夢中の磯吉がヤクーツクに残るのを思いとどまらせようと光太夫がアグリッピーナの容姿のことを「中の下だっ!」と繰り返し言うのはいかがなものかとは思いました(笑)。

大盛り上がりの犬ぞりのシーン。
6月6日に観た時は初日間もないこともあってか、舞台奥の幕の下から犬たちが次々出てくると客席どよめきが起こりました。着ぐるみなんだけどリアルで可愛くて、よくできていました。11匹の犬たちがV字になって走るフォーメーションは3階から観た方が断然楽しい。

犬ぞりに乗ってシベリアの雪原を行く時に白樺の木が後ろに走り去っていくのも楽しくて、千穐楽ではその白樺の木の1本が松也くんで、「あれ?この前観た時は気づかなかったけど(3階だったし)、楽スペシャルかしら?」と思っていたら、中日あたりからやるようになったらしいと教えていただきました。

ドラマとしてコクッと立ち上がるのは三幕。
サンクトペテルブルグの謁見の場面は、役者さんはもちろん、衣装や美術も含めて、歌舞伎の底力を知る思い。
豪華なドレスを纏った皆さま、優雅な貴婦人でいらっしゃいました。
秘書官アレクサンドル(寿猿)と女官ソフィア(竹三郎)の合計175歳カップルが登場する楽しいごちそうつき。

そしてこの後の別れの場面。
何としても残ったみんなで日本に帰りたい光太夫。
凍傷のため左足を切断し、帰国は無理と洗礼を受けた(それは手術費用のためでもあった)庄蔵。
恋人のためにロシアに残ると見せかけて、実は庄蔵を一人にしないためだった新蔵。
三人三様の思いが交錯して、光太夫と庄蔵はロシア式の挨拶までかわして、いざ出発、という時になって、「日本に帰る~」と振り絞るように叫ぶ庄蔵。「俺も帰る~」と続く新蔵。
涙ナミダ。

この場面、所作や竹本含めてとても歌舞伎味の濃い演出だなぁと思ったのですが、後で読んだ筋書の三谷幸喜さんの「作・演出のことば」に、「この場面は幸四郎さん、猿之助さん、愛之助さんの3人に任せて、3人が車座になって話し合いながらつくった場面」だと書かれていて、大いに合点がいった次第です。
そのつくり上げ方もいかにも「らしく」て、その一端を垣間見せてくれたような三谷さんの文に感謝。


日本に帰るエカテリーナ号の船上。
あんなに見たがっていた富士山、あれほど帰りたがっていた日本を目前にしてついに力尽き息絶える小市。
小市は「忘れてしまう」ことのありがたさ、「忘れられない」ことの切なさの象徴のような存在だと思いました。

磯吉と2人だけになり、「俺は神なんか信じない」と言い放って、仲間たち一人ひとりの名を挙げる光太夫。
そこに浮かび上がる富士山。その凛とした姿の美しさ切なさ。
そして居並ぶ仲間たち。亡くなった人も、生きてロシアに残った人も。
辛く切ない別れがたくさんあったけれど、生きることへの希望も感じる鮮やかなラストシーンでした。


舞台装置、美術(堀尾幸男)も印象的。
大詰、光太夫、磯吉、小市をエカテリーナ号が日本に向けて出航する時、薄いブルーの大きな布が舞台側からふわりと客席頭上を駆け抜けて行って、3階から観ていて「綺麗だな」と思っていたのですが、1階で実際に頭上をあの布が舞っていくと、何だか自分が蒼い海の底にいるような、不思議な気分。とてもステキな体験となりました。



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幸四郎さんの光太夫は、頼りなげな序盤から、ロシアに残ることを断ると命の危険にさらされるかもしれないと知りつつエカテリーナに帰国の意志を強く述べ立てるまで、彼自身も過酷な体験を経て強く成長したと感じられる人物。最後は2人になってしまいましたが、日本に帰れたのはこの人の陽のエネルギーがあったからではないかな。
そんな光太夫が、一座を率いる幸四郎さんとも重なり、ラストの舵を握りながらの長台詞に聴き惚れました。

いつも不満を抱えた皮肉屋の庄蔵と女帝 エカテリーナの二役を演じた猿之助さん。
庄蔵では船上の時から小芝居たくさんして笑わせてくれるし、歌舞伎味たっぷりにここぞというところは聴かせて泣かせてくれるし、芝居の上手さ冴え渡っていました。
エカテリーナは登場した瞬間から、「そうよ。これよ、これ」という感じの堂々たる女帝っぷり。さすがの大きさ、華やかさでした。

新蔵の愛之助さんは、協調性がなく嫌味な憎まれ役な感じで来ていて最後にあれはずるい(笑)。
こんな風に幸四郎さんや猿之助さんとがっぷり組んでお芝居する愛之助さんを観たのは久しぶりな気がしますが、やっぱりいいじゃん!となりました。

船親司の三五郎ととともにエカテリーナの寵臣でロシア帝国のNo.2 ポチョムキンを演じた白鸚さん。
貫録たっぷりなポチョムキン公爵。ロシアの情報流出を憂い、思慮深く、いかにもしたたかで老練なキレ者の政治家といった風情で、他を圧する存在感でした。
鷹揚な大物感ハンパない猿之助さんの女帝エカテリーナとの対比が迫力満点で、こんな二人が治める国ロシア強大すぎる・・・となりました。



染五郎くんはたとえば台詞の発声とか舞台上で他の人が芝居している時の所作とか、まだまだな面ももちろんたくさんあるのですが、どこにいても目を惹く華と、13歳であの芝居ができるのはやはりすばらしい。
ロシア語教室の場面も、教えられた通りという感じではあったけど、ちゃんと客席を笑わせることができていましたし、恋する磯吉の可愛らしさもねー。

磯吉の恋人 アグリッピーナの高麗蔵さんと新蔵の恋人 マリアンナの新悟くんはどちらも怪演。
マリアンナの日本のことわざ集ウケたし、メイクも綺麗だったな。
怪演といえば、1回目観た後、「松十郎さんがよかった」とおっしゃっていた方がいて、「え?松十郎さん?どこに出てたの?!」となったのですが、二度目はしっかり把握。あの役だったとは・・・こちらも怪演でした。

万雷の拍手に迎えられて、満を持して三幕から登場した八嶋智人さんのラックスマン。
よく動いてテンポよくハキハキしゃべって笑いも取る、三谷作品のいつもの八嶋さんですが、これを歌舞伎座で、歌舞伎役者さんの中に一人入ってやれるの凄い。特段浮いている感じもなくて、逆に見得を披露したりしてやんやの喝采を浴びていました。屋号は「トリビ屋」なのですって。

そして、口上の尾上松也くん。
事前情報を入れないで観ましたので、最初にいきなり松也くんが眼鏡かけてスーツ姿で出てきてびっくり。
筋書には「教授風の男」と書いてありましたが、自分を「先生」と呼び、客席をいじったり質問を受けたりしながらも、当時の時代背景や徳川家康の一本帆柱の施策を簡潔に解説。あしらいの上手さはさすがです。
千穐楽の質問の一つに、「三谷幸喜さんに言いたいことは?」というのがあったのですが、「言いたいのはただひと言。使ってくれてありがとう~!」と満面の笑顔でおっしゃっていました
「千穐楽だから好きにやらせてもらう」と、♪徳川いえやす~~~ とミュージカルばりに歌い上げたりも。
途中にも何度か出てきましたが、聞くところによると、初日から日が経つにつれて出番が増えていったのだとか。

千穐楽カーテンコールは3回。
最後に幸四郎さんが、みなもと太郎さん、三谷幸喜さんに感謝の意を述べられ、松也くんが定式幕引いて打ち出し。最後までお見事の仕切りっぷりでした。


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シベリアの雪いっぱい浴びて、笑って泣いて、最後はゆらりと揺れる碧い海の底 のごくらく度 (total 2074 vs 2075 )


posted by スキップ at 22:27| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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