2018年06月03日

しがねぇ恋の情けが仇  コクーン歌舞伎 「切られの与三」


kirarenoyosa.jpgラストシーン。
飛行機雲が一筋の線を描いていく青空の下、一人ぽつんと座る与三郎。
「しがねぇ恋の情けが仇」と空に向かってつぶやきます。
この台詞、与三郎が「源氏店」でお富に向かって言い放つ言葉で、もちろんその場面にも出てきましたが、全く違って聞こえました。


渋谷・コクーン歌舞伎 第十六弾 「切られの与三」
作:  瀬川如皐 「与話情浮名横櫛」より 
補綴: 木ノ下裕一
演出・美術: 串田和美
出演: 中村七之助  中村梅枝  中村萬太郎  笹野高史  真那胡敬二  
中村鶴松  中村歌女之丞  片岡亀蔵  中村扇雀  武谷公雄 ほか

2018年5月10日(木) 1:30pm シアターコクーン 1階B列(5列目)下手
(上演時間: 3時間5分/幕間 10分・15分)



2年ぶりのコクーン歌舞伎。
今年は中村勘九郎さんが大河ドラマの撮影のため出演されず、中村七之助さん主演ですが、なーんと、その七之助さんに立役をあてるという変化球投げてきました串田さん。

木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんが補綴としてコクーン歌舞伎に初参画されるのも話題です。
入場するとロビーに串田さんと木ノ下さんが並んで立っていらっしゃいました。


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「与話情浮名横櫛」は歌舞伎でもよくかかる演目ですが、「木更津海岸見染の場」と「源氏店の場」の見取りがほとんど。2016年7月の松竹座や2013年5月の明治座では、「赤間別荘の場」が間に入っていました。
明治座といえば染五郎さん(当時)の与三郎にお富は七之助さん。なつかしい~

今回のコクーン歌舞伎では、「源氏店」でハッピーエンドで終わるのはなく、その後の与三郎の流転の人生が描かれています。
これが初めて見聞きするお話で、原作を読んだことがないのでどれくらい潤色されているのかわかりませんが、「ほぇ~、そんな展開?」と驚きつつとてもおもしろかったです。


囚人として島送りになった与三郎と一緒に島抜けしようとして果たせず、与三郎を売るようなマネをした久次(扇雀)が、恩赦を受けてお富と夫婦になっていたかと思えば、歌舞伎お得意の「実は」な展開で、与三郎の親に恩義があり、自分の生血と薬を混ぜて飲むと与三郎の全身の切り傷が消えるからと腹を切るなんて、どこの「摂州合邦辻」かと思いましたが。

しかしながら、これを「飲まない」選択をする与三郎。
「受けた疵ごと俺のものだ」と言い放って、劇場奥まで一気に駆け上がります。
それまで運命に流されるままにのんしゃらんと生きてきた与三郎が覚醒した瞬間。意志を持った強い目線がひと際印象的でした。

そこから舞台を客席を縦横無尽に疾走し続ける与三郎。
お富与三郎でこんな疾走感のある舞台を観られるなんてね。
「疾走感」ってコクーン歌舞伎の代名詞のようなイメージがあるのですが、前回の「四谷怪談」には残念なことにそれが感じられなかったので、駆け抜けていく七之助さんを観ながら、「コクーン歌舞伎が帰ってきた」と胸が熱くなりました。勘三郎さんの姿が重なったりもして。

そして冒頭に書いた最後の場面に繋がります。
「源氏店」でお富に投げつけるように放った言葉を、何とも穏やかな、お富のすべてを許しているような、それでいて寂寥感たっぷりに口にする与三郎。
島流しから命の危険を冒してまで戻った江戸にも居場所を見つけられず、疎外感の中で刹那的に生きる与三郎が傷を消さない選択、つまり自分がこれまで生きてきた痕跡を丸ごと受け止めて、これからも傷だらけのまま、またさらに傷を重ねて生きていくのであろうという覚悟と孤独が感じられるラストシーンでした。

お富の造形も新鮮でした。
運命に流されて男の人に寄りかかって生きているようでいて、ちゃんと自分を持っている。
色っぽい姐さんでありつつ与三郎に人の殺し方(刺し方)を囁いたりして、どんどん妖しげなファムファタールぶりを発揮していて、「お富さんってば、悪女!」と思いましたが、「きっとあるはずだよ、お前の居場所がさ」「うらやましいねぇ。お前は走れるんだもの」という言葉は、与三郎への励ましであるとともにお富さん自身の哀しさがにじみ出ているようでした。
演じるのはこれがコクーン歌舞伎初参加の梅枝くん。さすがに何をやらせても上手い。歌舞伎以外の役者さんも出演しているコンテンポラリーな舞台にも違和感なく溶け込んでいました。

会見で「どうやって男らしく見せようかと・・」と発言して「宝塚の人じゃないんだから」と笹野さんのツッコまれていた七之助さん。
少年のような脆さとあやうさ、繊細さを持ち合わせ、凄むかと思えばその実甘ったれでかつ色気もあり、時折茶目っ気も見せるとても魅力的な与三郎でした。
元は武家のおぼっちゃまという品もありつつ、啖呵はキレッキレ。
女方では発揮する機会がそれほど多くない身体能力の高さも見せつけてくれました。捕り手の馬跳びを連続で越えていくところ、客席は大喜びで拍手喝采でした。

与三郎の弟 与五郎の萬太郎くんと鶴松くんおつるのカップルがいかにもお富与三郎の対照に置かれた存在。
清廉潔白で曇りのない2人、可愛かったな。
笹野 さん、真那胡さんとおなじみの顔ぶれの中、幇間甚八の役者さんが印象的だけど知らない人だ~と思って後で調べたら武谷公雄さん・・・知ってる人だった・・・木ノ下歌舞伎によく出られている方でした。


枠組みだけを移動して展開するシンプルな装置。
舞台中央を横切る大きな太鼓橋が印象的でした。
ピアノ、ベース、パーカッションによるジャズの生演奏と附け打ち。
コクーン歌舞伎でピアノが使われたのは今回が初めてなのだとか。

演出では赤間源左衛門にお富との逢瀬を見つかった与三郎が松明とろうそくの灯りの中で延々と凄絶なリンチを受ける場面が怖いくらいリアリティがあってちょっと目や耳をふさぎたい感じでした。
ここ、歌舞伎ではあまりリアルに描かれることはありませんが、そりゃ全身三十四箇所の傷跡が残るって、相当なことされたはずですものね。

平場や花道はなく普通の座席でしたが、通路側の席でしたので真横にお富さんが立ち止まっていい匂いしたり、与三郎がびゅん!と駆け抜けて行く風が頬をかすめたり、楽しかったです。



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開演前、ロビーで何やら行列ができていたので覗いてみたら築地市場から出張の茂助だんご。
ちょうどおなかもすいていたので並んで買ってみました。
茂助だんごの醤油とこしあん2本、それに柏餅(よもぎ・つぶあん)。
美味でございました(食べ過ぎでしょ)。



hizakake.jpeg膝かけお借りしたらなーんとエトロでした。
しかもコクーンの名前入り(笑)。





与三郎とてもよかったですがお富な七之助くんも観たい のごくらく地獄度 (total 1918 vs 1924 )






posted by スキップ at 22:32| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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