2018年05月05日

マクベスは自分で選んだんだ 「赤道の下のマクベス」


macbeth.jpg今でもタイトル聞くだけで胸がキュッと締め付けられるような気持ちになる「焼肉ドラゴン」はじめ、「たとえば野に咲く花のように」 「パーマ屋スミレ」と鄭義信さんが新国立劇場に書き下ろした昭和の戦後史を描いた三部作に続く第四弾。

これまでの作品の中で時間的にも内容的にも最も「戦争に近い」作品でした。



「赤道の下のマクベス」 Macbeth on the Equator
作・演出: 鄭義信
出演: 池内博之  浅野雅博  尾上寛之  丸山厚人  
木津誠之  チョウヨンホ  岩男海史  中西良介  平田満

2018年4月6日(金) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 
1階A列センター  (上演時間: 2時間45分/休憩 15分)



三部作の観劇記:
焼肉ドラゴン (2011年4月)
たとえば野に咲く花のように (2016年4月)
パーマ屋スミレ (2016年6月)


1947年夏 シンガポール チャンギ刑務所。
BC級戦犯が収容される監獄・Pホールが舞台。

ここに収容されているのは、
演劇にあこがれ、シェイクスピアの「マクベス」をぼろぼろになるほど読み込む朴南星(池内博之)
戦犯となった身を嘆きいてめそめそ泣いてばかりいる李文平(尾上寛之)
一度釈放されたにもかかわらず、再び捕えられこの刑務所に戻された金春吉(丸山厚人)
という朝鮮人3人と
残虐行為を命令し続けた陸軍大尉 山形武雄(浅野雅博)
山形の部下で捕虜を迫害した罪に問われている小西正蔵(木津誠之)
ニューギニアで地獄の行軍をした黒田直次郎(平田満)
の日本人3人

高い位置にある絞首台が常に彼らを見下ろす中庭。
赤道直下の太陽が照りつける中庭をはさんで両側に独房の6つの扉。
その壁には拙い文字で鉄道路線 が書かれたこの空間で展開する息詰まるような物語。


碁を打ったりからかい合ったり喧嘩したり、歌ったり手紙を書いたり、一見のどかに過ごしているように映る彼らは全員死刑囚で、夕刻に告げられる死刑判決に怯え、1日2回のわずかばかりの食事に腹をすかし、時には看守からリンチを受け、肉体的にも精神的にも熾烈で過酷極まる日々を送っています。

残虐行為を命令し続けたり、極限状況の中で村民を殺したり、それそれが憤りややりきれなさ、慙愧の念を持って過去を振り返る中、寡黙で他の人たちと交わろうとしない元軍人の山形と、飄々としてどこか達観した雰囲気の黒田を除けば、他は皆、「自分が理不尽な死刑判決を受けたのは間違いだ」、あるいは「自分よりももっと死刑判決を受けるべき人間はいる」と思っているようです。


南星、山形、小西の3人に死刑宣告が言い渡された夜。
夕食にいつもとは打って変わったご馳走が供され、「最後の晩餐」とばかりに明るく騒ぎながら、南星が黒田を相手にお得意のマクベスの一節を演じながら独白する場面がこの作品の白眉。


「マクベスは何で王を殺した?
そのままだって王になれたかもしれない・・・なのになんでだ?
魔女にそそのかされたからか?女房にそそのかされたからか?
違う! 理由はひとつだ・・・自分で破滅の道を選んだ・・・そう、選んだんだ、自分で」

「俺も自分で自分を死刑台に送る道、選んだってわけだ」

それを聴いていた春吉が
「選んだ訳じゃない。ほかに道はなかった」と反論します。

「あったはずだ」と南星。
「捕虜監視員の試験を受けない道、野口部隊の訓練に耐えない道、鉄道隊に病気の捕虜を渡したりしない道、どんなことがあろうと、捕虜を殴ったりしない道。独立運動に身を投じる道だってあったはずだ」


正直に告白すれば、私も春吉と同じ気持ち。
「あの状況下では他に選ぶ道はなかった」と思います。
植民地状態だった当時の朝鮮で日本国やその指示を受けた村の役人の言うことに逆らうなんて、よほど強い心の持ち主でなければできなかったでしょうし、まして戦時下においては上官の命令がすべてだったと思います。
だからそれを責めることなんて決してできない。
でも、本当にごく少数かもしれないけれど、信念を持って「No」と言った人がいたこともまたまぎれもない事実。

振り返って弱い心を持つ凡人の私は。
そんな極限状況でなくても、人生の様々な場面で「自分が選んだ」結果、今があるというのは往々にしてあること。
その結果に責任を負うのは他の誰でもない自分自身だということも。
人生にたらればは禁物というけれど、「あの時そうしなかったら」「あの時こっちを選ばなかったら」と考えがちな自分の心に、改めて警鐘を鳴らされた思いです。


もうひとつ、とても印象的だったのは、文字が書けない小西が、山形に妻への手紙を代筆してもらう場面。
山形が口述する小西の妻宛ての文面が、山形自身の妻、ひいては故郷の両親への言葉となり、「一家の総領として家を支えていく所存でしたのにそれができなくなり心からお詫び申し上げます」と、彼方に向かって静かに頭を下げるところで思わず落涙。


翌朝、南西がシャワーを浴び、憑きものが堕ちたような表情で「俺が一番列車だ」と絞首台に向かう南星を呼びとめ、黒田が父親の代わりに、と彼を抱きしめるあたりから周りでも涙をぬぐう人続出。
次に絞首台に向かう山形が皆に敬礼をした時、親友を殺されたとして彼を最も憎んでいた春吉)が最後に敬礼を返した場面も胸がいっぱいになりました。

その春吉は再び死刑を免れ、懲役20年で別の刑務所に移されることになり、最後に残ったのは黒田と李文平の2人。
もう泣くのはやめたという李文平は自分のことで母が絶望して命を絶ったことを告げて黒田に取りすがって泣き崩れます。
明日は死刑かもしれないと俯く李に、

「そんなことより、今日のビスケットが何枚かが問題や。そやろ」、
「わしらは生きとる。そやろ」

と黒田のやわらかい言葉に、救われた思いのラストでした。


直情的でありながら剛柔あわせもつ池内博之さん、枯れた雰囲気の中に温かい人間味あふれる平田満さん、終始冷徹に大日本帝国軍人としての矜持と諦念を描出する浅野雅博さん・・・。
男優さんのみで描かれる芝居ですが、役者さんは皆すばらしかったです。
口跡も明瞭な役者さんばかりなので、台詞がダイレクトに伝わって、語られる情景が一つひとつ目に浮かぶよう。


重く厳しい物語ですが明るさと笑いも失わず、戦争の不条理や人間の愚かしさとともに、人が「生きる」たくましさ、崇高さも描かれて、前向きな気持ちで席を立つことができる作品でした。




ロビーでお見かけした鄭義信さん ほんとにフツーのおじさんなんだけど(失礼) いつも泣かされる のごくらく度 (total 1908 vs 1909 )



posted by スキップ at 14:25| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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