2018年01月15日

やまない羽音 「欲望という名の電車」


yokubo2018.jpg「欲望という名の電車」のブランチといえば、文学座の杉村春子さんの当たり役として知られていますが、私が初めてナマで観たブランチは大竹しのぶさん。2002年でした。

蜷川幸雄さんの演出で、スタンリーは堤真一さん、ステラ 寺島しのぶさん ミッチ 六平直政と、思い返しても非常に豪華キャスト。
シアター・ドラマシティの通路側の席で観たのですが、上半身白いランニングシャツ一枚で上腕二頭筋をさらけ出した堤真一さんが真横に立った時、あまりのカッコよさ、色っぽさに客席がざわめいたことを今でも鮮明に覚えています。

大竹しのぶさん二度目のブランチ。
演出は、フィリップ・ブリーン。
大竹しのぶ x フィリップ・ブリーン x テネシー・ウィリアムズ といえば
「地獄のオルフェウス」(2015年)と同じですね。


シアターコクーン オンレパートリー2017
DISCOVER WORLD THEATRE vol.3
「欲望という名の電車」
作: テネシー・ウィリアムズ  
翻訳: 小田島恒志
演出: フィリップ・ブリーン
美術: マックス・ジョーンズ
出演: 大竹しのぶ  北村一輝  鈴木杏  藤岡正明  西尾まり ほか

2018年1月7日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール B列センター
(上演時間: 3時間17分/休憩 20分)



物語の舞台は第二次世界大戦後のアメリカ ニューオリンズのフレンチクォーター。
ステラ(鈴木杏)とスタンリー(北村一輝)夫婦が暮らすこの町に、ステラの姉のブランチ・デュボア(大竹しのぶ)が訪ねてきます。「欲望」という名の電車に乗って、「墓場」という名の電車に乗り換え、「天国」という名の駅で降りて・・・。
姉妹は南部の大農園で育った古きよき時代の上流階級の出身でしたが、家屋敷を手放した傷心のブランチをステラは温かく迎え入れ、3人の奇妙な同居生活が始まります。が、新しい土地に救いを求めてやってきたはずのブランチは、スタンリーとの軋轢によって過去の傷を暴かれ、やがて狂気へと破滅していきます。


美術がとても印象的。
舞台中央にステラ夫妻が住む二間のアパートを置いているのですが、舞台いっぱいに使うのではなく、周りに空間を持たせて劇場機構をわざとむき出しにして見せているよう。
部屋は可動式の台の上に載っていて、奥からそれごと前へ出て来たりまた奥に引っ込んだり。
上を見上げると、そのアパートの外観があって、休憩時間にはこれが降りてきて部屋をすっぽり覆っていました。
閉鎖的な小さな世界の出来事なのだと示すように。

幕間にはその壁に大きな蛾の影が飛んでいて、不穏な羽音がずっと続いていました。
それはまるでブランチの頭の中でやむことなく鳴り響いているようにも感じられ、この後に起こる悲劇を予感させます。
反面、1幕ラストのブランチとミッチのデート場面は降るような星が美しかったりも。


大竹しのぶさんは、客席通路から登場する時からブランチそのもの。
白い帽子に上品でクラシカルな白いスーツ。思いつめたような詰めた表情で前を見据えながら時折焦点が合わないような目線・・・まわりの人たちとは明らかに異質なばかりでなく、何か言い表せないようなものを背負っている空気感が漂います。
若い頃の結婚の不幸な結末、没落していく旧家を一人で支えなければならなかった重圧・・・様々なものと闘い、破綻の末に教師の職まで追われ、疲弊し現実を受け入れることができずアルコール依存と狂気へと逃避しているブランチ。

その根源にあるものが、夫を自殺へと追い込んだのは自分だという悔恨。
あの時、夫と踊ったワルシャワ舞曲が聞こえてくる(ブランチの幻聴なのだけれど)たびに錯乱し、「銃声が鳴ればこの音は止むの」とミッチに言うブランチが痛々しくて目をそむけたくなるほどでした。

「現実」を受け入れることができず、虚飾の世界へと逃避しているブランチに対し、社会の底辺にいるという「現実」に不満を抱き反発し、屈折したコンプレックスを暴力という形で爆発させるスタンリーは北村一輝さん。
スタンリーが北村一輝さんと聞いた時、「うまいことキャスティングするな」と思ったものです。
野性的で強靭。
ブランチに対しては執拗なくらい容赦なく冷酷なのに、スタンリーに暴力をふるわれて怒ったステラがユーニスの家へ逃避したときにはオロオロして「ステラを返してくれ!」とまるで母親を求める子供のよう。その落差も魅力的なスタンリーでした。

スタンリーが愛してやまないステラは鈴木杏さん。
ステラもスタンリーのことをとても愛していて、決して豊かではないけれど「ブランチとは違う人生を選んだ」ことに自信も誇りも持っています。だけど姉妹としてブランチの理解者でもあり、肉親として深い愛情を示す、まるでこの物語の希望のようなステラ。

ブランチが施設に入れられるラストシーン。
「ブランチが言ったとおりのことをスタンリーがやったのだとしたら、もうスタンリーとはやっていけない」とユーニスに告げるステラ。
ユーニスは「考えちゃいけない。それでも生きて行かなくちゃいけないんだから」と言い、スタンリーは「また元どおりだ」と言ったけれど、たとえあのことがなかったとしても、多分もう以前と同じには戻れない。
姉を失い、夫も失おうとしているステラ。心を遠くへ置いてしまったブランチより、むしろこのステラの悲しみが直接心に響いてきました。
そういう意味ではステラも「破滅」してしまったのかもしれません。



ストーリーも結末も、ブランチの運命も知っていてなお、、集中力途切れることなく惹きつけられる舞台でした のごくらく地獄度 (total 1862 vs 1864 )


posted by スキップ at 22:33| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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