2018年01月11日

白の栄華 赤い破滅 「アテネのタイモン」


timon.jpg開演前。
舞台上で白い衣装をつけて三々五々、アップしたり発声練習をする役者さんたち。
その数がどんどん増えて、やがて吉田鋼太郎さんが登場すると客席から拍手。
最後に藤原竜也くんが加わって、また盛大な拍手で迎えられたところで、鋼太郎さんの「さあ、やろうか」という掛け声で役者さんが全員横一列に並んで舞台前方へ進み出て笑顔でご挨拶。

残り5作となったシェイクスピア・シリーズ。
蜷川さんのスピリットを受け継ぎながら、「鋼太郎さんの」シリーズが始まるのね、と思いました。


彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾  アテネのタイモン」
原作: ウィリアム・シェイクスピア  翻訳: 松岡和子
演出: 吉田鋼太郎   
美術: 秋山光洋  照明: 原田保  衣裳: 小峰リリー
出演: 吉田鋼太郎  藤原竜也  柿澤勇人  横田栄司  
大石継太  間宮啓行  谷田歩  河内大和 ほか

2018年1月6日(土) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階C列センター  (上演時間: 2時間40分/休憩 20分)



物語の舞台は衰退期にあるアテネ。
富豪の貴族タイモン(吉田鋼太郎)は、皮肉屋の哲学者アペマンタス(藤原竜也)や誠実な執事フレヴィアス(横田栄司)の忠告に聞く耳を持たず、取り巻きの貴族や芸術家たち誰かれ構わず気前よく金品を与えていました。しかし、実は家計は逼迫しており、それまでちやほやしていた者たちは誰も助けてくれず破産。怒りに燃え、人々を怨みながら屋敷に火を放って森に住まうようになります。そこへフレヴィアスはじめ様々な人たちが訪ねて来ますが、誰にも心を開くことなく、世界を呪う墓碑銘を遺して死んでいきます。


多くの友人(と思っていた人々)に囲まれてパーティにうつつを抜かしていたタイモンが窮地に陥るや彼らから裏切られ、憤怒のうちにアテネを去るまでの一幕と、枯葉に覆われた鬱蒼とした森の中の洞窟で木の根をかじって暮らすタイモンのもとを様々な人たちが訪れる二幕とで舞台装置も物語の印象もガラリと変わります。

白い衣装、白いテーブルクロス、屋敷前の白い大階段。
大量に撒かれる赤い証文。
「最後の晩餐」を思わせる横一列のテーブルを照らす赤い照明。
火を放ち、焼けて崩れ堕ちる屋敷から立ち上る煙。
まるで色をなくした枯葉ばかりの暗い森。

栄華の極みのような暮らしから一転して破滅に至る過程の色彩の対比も鮮やかでした。


image1.jpg

私の席の横にひらりと落ちてきた「証文」。


この物語のキモはあんなに鷹揚だったタイモンが、人間不信から頑なに心を閉ざすに至る内面の変化にあるかと思いますが、その二幕が少し単調になっちゃったかなーという印象です。
たとえば一幕の、タイモンの借金の申し入れを断るシーンは3人3回繰り返されるのですが、カウチに横たわってワイン飲んでいたり、酒場にいたり、裸でお風呂に入っていたりと、3人3様に見せてくれます。
二幕の森のタイモンの所には、アルシバイアディーズ率いる軍人たち、画家と詩人、強盗、元老院議員たち、と様々な人たちが訪ねて来ますが、どれも不毛な会話の繰り返しになってしまった感じでしょうか。

その中でくっきり違っていた二人・・・

これまでの人たちと同じ調子のタイモンにどこまでも誠実に対する執事のフレヴィアス。
ついにタイモンが、「正直な男がたった一人だけいる・・・その一人とは、執事だ」と言った時、リア王の「お前が誰かは知っている・・・お前の名はグロスター」というシーンを思い出して泣きそうになりました。
彩の国シェイクスピア・シリーズの「リア王」で、平幹二朗さんのリア王に対して、グロスター(タイモンに対するフレヴィアスにあたる)は鋼太郎さんだったなぁ。
フレヴィアスの忠誠に応えて金貨を箱ごとくれてやりますが、それでも一緒にアテネに戻ろうとしないところにタイモンの絶望という闇の深さが伺えます。

もう一人はアペマンタス。
罵り合い、唾を相手の顔にかけ合う激しい言い争いでも、心の奥底では互いに認め合っている雰囲気が感じられます。この役を引き受けたことを含めて、リアルの吉田鋼太郎-藤原竜也の関係が重なって見えたりもして。
「人間を信じるなんてくだらない」という点では一致している二人。
それでも、アペマンタスの言葉を素直に受け容れることができないタイモンがどこまでも哀しい。
最後にアペマンタスに抱擁し「生きろ」と突き放すタイモン。
アペマンタスはこの物語の中で独特の存在なのですが、実はタイモンと表裏一体の存在・・・タイモンの内なるものの象徴でもあるのかなとも思いました。


タイモンの吉田鋼太郎さんは物腰やわらかで誰に対しても寛大な、だけど何ごともあまり深く考えていない男が、裏切られた怒りを爆発させ、憤怒の炎に包まれた後、人間に対する怨みと不信で頑なに心を閉ざすまでの落差と対比を張り詰めたテンションで演じ切って、さすがの存在感。
長台詞も多く、シェイクスピア作品で演出と主演を兼ねるって体力的にも精神的にも本当に大変なことだと思います。

人々の真実を見抜く皮肉屋で毒舌家の哲学者アペマンタスの藤原竜也くんも、静かな語り口でどこまでも主に忠実な執事フレーヴィアスの横田栄司さんもすばらしかったですが、今回特筆すべきは柿澤勇人くん。

カッキーを最初に意識したのは「海辺のカフカ」のカラスでした。
でもそれ以降は「ミュージカルの人」という印象が強く、出演作は何作か観ていますがそれほど強く印象に残ったことはありませんでした(すまんっ!・・・去年観た「フランケンシュタイン」のジャックは結構印象に残ってる)。
これがシェイクスピア デビューだそうですが、もう、どんどんストプレやったらいいと思うよ!

アルシバイアディーズがまたいい役なんだ。
人殺しをした友人を弁護して元老院と対立し、アテネから追放を命じられる、というタイモンと別の物語があります。
ここ、客席通路を歩き回って激しく自分の主張を貫き、元老院を論破しようとして拒絶され、次第に次第に激昂していく場面の台詞、すばらしかったです。
色っぽさも品もあって、赤い軍服とマントが長身に映えて、堂々とした軍人の佇まい。
通路側の席でしたので、アルシバイアディーズが真横に立った時には見惚れ聴き惚れました(いい匂いもした)。

アルシバイアディーズはまた、最後に物語を引き受ける人物でもあります。
彼が元老院の申し出を受け容れて攻撃をやめ和平を選んだこと、その城壁の前で静かにタイモンの墓碑銘を読み上げる役目を担ったことは、この物語の救いのようにも思えました。



それでもその全てを高台から睨みつけるタイモン こわ~い のごくらく地獄度 (total 1859  vs 1861


posted by スキップ at 22:18| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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