2017年12月10日

愛を知った宇宙人 「散歩する侵略者」


sanpo.jpgイキウメの代表作とされる作品。
2005年に初演されて4演目ですが私は今回初見でした。

前川知大さんお得意の、日常にヒタヒタと入り込んでくるような少し不思議なSFホラー。
少しずつ謎が解けていく物語をとてもおもしろく観ながら、「この物語はどこに帰着するんだろう」とずっと思っていました。
そして、ラスト。
目の前の展開に、もう胸がいっぱい。周りは涙ぬぐう人続出。もちろん私も。ヤラレました。前川さん、お見事です。


「散歩する侵略者」
作・演出: 前川知大 
美術: 土岐研一   照明: 原田保 
出演: 浜田信也  安井順平  盛隆二  大窪人衛  森下創  
内田慈  松岡依都美  板垣雄亮  天野はな  栩原楽人  

2017年11月25日(土) 1:00pm ABCホール A列センター
(上演時間 2時間10分)



日本海に面した小さな町。
夜店で売っているようなビニール袋に入れた金魚を持って海を眺める裸足の男がジャーナリストの桜井(安井順平)と出会うところから物語は始まります。
男の名は加瀬真治(浜田信也)。3日間失踪の後まるで別人のようになって、脳の障害と診断されて妻の鳴海(内田慈)や彼女の姉夫婦(松岡依都美・板垣雄亮)に見守られ、毎日散歩に出かけて少しずつ元の自分を取り戻していくようにも見えました。
一方、同じ町で凄惨な一家心中事件が起こる中、桜井は、天野真(大窪人衛)という高校生と知り合います・・・。

という物語。
・・・と見せておいて実は「宇宙人」が侵略してくる話。
地球を侵略するために、まずは事前に情報収集するメンバーを送り込んできたのでした。
名前を一応「宇宙人」としている彼らは実体を持たず、生き物の体に入り込みます。脳ごと乗っ取っているので記憶はそのままで言葉も普通に話せます。が、言葉が意味する「概念」がわからないため、地球人からその「概念」を学び取ります。
たとえば「家族」、たとえば「所有」、たとえば「禁止」。
その概念を宇宙人に吸い取られた人間はその概念を失ってしまうのでした。


失踪前、真治と妻の鳴海の仲は冷え切っていて別居していました。
ところが、記憶はあっても概念を持たない、ある意味子どものようにどこか無垢さを感じさせる真治に、仕方なく彼の面倒をみることになった鳴海の心が少しずつ溶けて、真治に対する愛情を取り戻すようになってきます。
最初は話が全く通じなかったのに、散歩から帰ってくるたびにいろんなことを覚えてくる真治。

浜田信也さんのこの人外感がハンパない。「それもらうよ」という言葉の響き。
散歩して、人から概念を奪うたびに少しずつ人間らしくなっていく感じが表情にも細かい仕草にも表れて、とても繊細な演技。

鳴海役は、以前にイキウメの公演ならおそらく伊勢佳世さんあたりの持ち役だったのではないかと思いますが、内田慈さん とてもよかったです。
いろんなことに戸惑いながら「真治」を愛する気持ちを再認識する鳴海。
その鳴海に突きつけられる現実の厳しさと、それに対して鳴海の取る行動がとても切ない。


宇宙人(というか宇宙人に入り込まれた人間)は3人いて、真治と天野真と一家心中の生き残りの女子大生 立花あきら(天野はな)。
彼らは三者三様に情報収集を行い、収集の結果、「概念」を奪われた人間たちのその後も描かれます。

天野真が桜井に自分の真実を見せるために、医師の車田(盛隆二)を挑発して「禁止」の概念を奪う場面の緊迫感。
大窪人衛さん、ほんとに宇宙人が乗り移っているんじゃないの?と思える迫真の演技で、この場面、本当に怖かったです。
天野真が車田に「考えろ!」というたびに、「お願い、考えないで」と思ってしまいました。


真実が明らかになり、宇宙へ帰ることになる3人。
「あなたが帰ったら真治はどうなるの?」と問う鳴海。
答えは「死」で、ここで最初の場面で真治が手に持っていた金魚の意味が回収されるなんていうシビれる脚本。

宇宙人たちがまだ収集できていない概念が2つあって、それは「神」と「愛」。
「じゃあ あなたに『愛』の概念をあげる」という鳴海。
「私から愛を奪って。そうすればあなたは概念を手に入れて、私はあなたがいなくなっても悲しくならないし、一石二鳥じゃん」と。

宇宙人が概念を吸い取る時、取られる方の人間は頭の中でそのことを深く考えている、つまり天野真が車田医師にしたようにそれを考えるように仕向けることが条件なのですが、
「何もしなくてこのままでいいよ。私もうそのことでいっぱいだから」という鳴海に、観ているこちらの心がいっぱいに。

少し躊躇しながらそれを奪う真治。
愛の概念を奪われてただ静かに微笑む鳴海。
「愛」を知って、崩れ落ち、泣き叫ぶ真治。
その姿はもう宇宙人ではなくて人間そのもの。

人間を人間としているものは「愛」だったという結末は少し甘さが勝ちすぎるようにも思いますが、まんまとハマって涙ナミダ。
このシーン、2人を浮かび上がらせる照明もとても美しかったです。


相変わらず洗練されたシンプルな舞台美術。
舞台の真中が坂になっていて、その下には亀裂が入り、その中や外、坂の上や下で空間を使い分け、浜辺だったり姉夫婦の家だったり病院だったりを自在に行き来する演出。
照明をあてることで転換する舞台。ホリゾントに映る月や海。


隣国に面した基地の町という設定で、時折鳴り響く軍用機の爆音。
「隣国からミサイル」という緊張が高まる今にまさしく・・・と思いながらこの作品が2005年に書かれたことを思い出しました。
「侵略してくる宇宙人」がまさに時代の不穏さを象徴していると見るのは穿ち過ぎでしょうか。



2時間10分一瞬の隙もない のごくらく度 (total 1847 vs 1850 )


posted by スキップ at 22:44| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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