2017年11月02日

我々は運命に戦うように仕向けられている 「トロイ戦争は起こらない」


toroy.jpg終演後、駅に向かう道で聞こえてきた年配のご夫妻の会話。
「戦争っちゅうもんはほんまにちょっとしたきっかけで起こるんや」
「そうや。そやから今の若いもんはこんな芝居どんどん観たらええねん!」

本当にそう。
トロイに起こった戦争の発端は女性の取り合いだったけれど、これを「領土」と置き換えたら、「民族」あるいは「宗教」だとしたら・・・。
今も昔も繰り返される争い、その愚かしさは少しも変わっていません。だからこそこの紀元前のギリシャ神話の世界の物語が普遍性を持って多くの書物になったり、繰り返し上演されているのでしょう。


「トロイ戦争は起こらない」
作: ジャン・ジロドゥ 
翻訳: 岩切正一郎
演出: 栗山和也
美術: 二村周作 
音楽・演奏: 金子飛鳥 音響:山本浩一
出演: 鈴木亮平  一路真輝  鈴木杏   谷田歩  江ロのりこ  
川久保拓司  大鷹明良  花王おさむ  三田和代 ほか

2017年10月26日(木) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 
阪急中ホール 1階I列(5列目)センター
(上演時間 2時間45分/休憩 20分)



物語: 長い戦争が終わり、平和が訪れたトロイの国。アンドロマック(鈴木杏)は夫であるトロイの王子エクトール(鈴木亮平)の帰りを待っていました。しかし、義妹のカッサンドル(江口のりこ)は再び戦争が始まるという不吉な預言をします。一方、エクトールの弟パリス(川久保拓司)は、ギリシャ王妃エレーヌ(一路真輝)を戦争の混乱に紛れて略奪してしまいました。ギリシャ国王メネラスは激怒し、「エレーヌを返すか、我々ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫り、使者としてオデュセウス(谷田歩)がやって来て、エクトールと対峙します。


ホメロスの叙事詩「イリアス」を題材に、フランスの劇作家 ジャン・ジロドゥが1935年に発表した作品。ヨーロッパでナチスが台頭してきた時期でもあり、ジロドゥは外交官でもあったということで、とても現実的、今日的。

美しいエレーヌを返すなんてもってのほか、トロイの威信にかかわる、戦争だ!とトロイの男たち・・・ここに登場するトロイの男は、エクトールとパリスを除けば自分たちは戦場に出ることはない年寄りの権力者なのですが。
妻を奪われ、名誉を汚されたギリシャ国王が激怒するのは当然として、だけどギリシャが本当に欲しかったものは、長年狙っていたトロイの富だったに違いありません。
そんな両国の思惑に翻弄されながら、何とか戦争を回避しようとするエクトール。


赤い太陽を背景にした、エクトールとオデュセウスの会談の緊張感漲るやり取り。
オデュッセウスは後に「トロイの木馬」を考案した知将であり軍人でもあるので、本来好戦派だと思いますが、そんな彼が、「我々は運命に、戦うように仕向けられているが、運命に刃向かうのも悪くない」と戦争回避の道を選び、背筋を伸ばして去っていく姿、それを見守るエクトールの表情は胸に迫るものがありました。

そこへ現れて、「エレーヌを返すなんて恥辱だ。兵を呼べ!戦争だ!」と騒ぎ立てる老詩人 デモコス(大鷹明良)を咄嗟に刺し殺して黙らせるエクトール。
怯えるアンドロマックをエクトールが後ろから抱きしめて、「トロイ戦争は起こらない」と涙ながらに告げているところへ幕が下り始めて、客席からもとまどいがちの拍手が起こりました。

「え!?この戯曲はそういう(トロイ戦争は起こらなかった)結末なの?」と納得いかない思いでいると、途中で止まった幕が再び上がり、兵士たちが登場して「誰に刺されたんだ?」とデモコスに聞き、デモコスは「オイアックスだ!」と答えます。
エクトールはデモコスを刺したのは自分だと必死で訴えますが、好戦的な兵士たちの耳には届かず、「オイアックスを殺したぞ!」という歓声だけが響きます。
かくして戦争が・・・というところに重なって響き渡る戦闘ヘリの轟音。

あんなに戦争を回避したがっていたエクトールが、都合の悪いことを声高に言う者を黙らせるために武器を使ったことが、ひいては戦争が始まることに繋がるという、何とも皮肉で示唆に富んだ結末でした。


傾斜のかかった円形の舞台。
ホリゾント下手から上手舞台橋端まで半円形に通路があって、その上は大きな門になったり壁になったり海辺の光景だったり。
客席前4列をつぶして舞台下から階段で登場するような立体的な構造でシンプルながら凝った舞台装置。
エクトールの衣装は軍服の上にトレンチコート着ていたり現代的。女優陣はロングドレス。


エクトールは鈴木亮平さん。
彼を最初に認識したのは、「テイキングサイド」(2013年2月)のウィルズ中尉役でしたが、その後、朝ドラに出たりしてあれよあれよと人気スターになりました。

何とか戦争を回避しようという真摯さがよく出ていて、舞台前方に一人立って訴える独白も大声なのに声が割れず、台詞もはっきり。
ただ、ちょっとガタイがたくまし過ぎて、「相手を殺すのがまるで自殺のようだった」と語るほど戦争に疲弊した人物に見えなかったのが残念だったかな・・・これは、大河ドラマ「西郷どん」の役づくりのためと想像するのですが、そのあたりの兼ね合い、役者さんの難しいところですね。

「トロイ戦争は起こらない」と言いながらも常に怯えるような切迫感がある鈴木杏さんのアンドロマックと、世界全体を冷めた目線で見ているような江ロのりこさんのカッサンドルが好対照。
登場した時からタダ者ならぬ緊張感をまとった冷徹で知的な谷田歩さんのオデュセウス、いかにも浮世離れした超然とした佇まいのエレーヌ・一路真輝さんも印象的でした。




鈴木亮平さん、2010年に観た「ANJIN ~イングリッシュサムライ」にも出ていたらしいけれど、全く記憶にない の地獄度 (total 1832 vs 1834 )



posted by スキップ at 23:49| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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