2017年10月17日

15年を経て変わらぬものは 「業音」


goon.jpg「悲劇」をテーマに、松尾スズキが作・演出を手掛けるプロデュース公演「日本総合悲劇協会」の16作目。
2002年にシリーズ第3作目として上演された作品の15年ぶりの再演ですが、私は今回初見でした。

初演で話題を呼んだ荻野目慶子さんに代わって主役を務めるのは平岩紙さん。意外なことに大人計画作品での主演はこれが初めてなのだそうです。


日本総合悲劇協会vol.6 「業音」
作・演出: 松尾スズキ 
振付: 康本雅子   映像: 上田大樹   音楽: 伊藤ヨタロウ
出演:  平岩紙  松尾スズキ  伊勢志摩  宍戸美和公  
宮崎吐夢  皆川猿時  杉村蝉之介  康本雅子 (エリザベス・マリー)とダブルキャスト

2017年9月23日(土) 1:00pm 松下IMPホール BB列(2列目)センター
(上演時間 2時間)



車のボンネットの上女性が倒れているところから物語は始まります。
運転していたのは元アイドルで今は落ちぶれている土屋みどり(平岩紙)。母親の介護をネタにした演歌歌手になって再起をはかろうとしているところでした。車にはねられた女性 杏子(伊勢志摩)は脳を損傷し、植物状態となってしまいます。彼女の夫 堂本こういち(松尾スズキ)は償いのためみどりを拉致し、結婚を迫ります・・・。


「わかっちゃいるけどやめられない」というキャッチコピー。
私欲にまみれた人々の「業」を描いているます。

加害者でありながら「物事には理由がある」と自分の落ち度とは限らないと主張するみどり。
恐妻家で自殺願望のあるこういち。
屈折したゲイで自分のコピーを量産したい丈太郎。
有名になりたいと田舎から出てきた堕落兄妹。

皆それぞれに事情はありつつ、己の欲をさらけ出して生きています。
そこに描かれるのは、母親が死んでいるのに介護していることにして年金を手に入れようとしたり、アイドルを夢見て上京した若者を騙したり、売春の果てにエイズに感染したり・・・貧困、介護、認知症、エイズ、そして宗教観。
現代における様々な問題が盛り込まれていますが、驚くのはこれが15年も前に書かれた物語であること、そしてここに描かれた事象は今もなお、いやむしろより深刻を増した社会問題としてより色濃く私たちの身に降りかかっているということです。


時折グサリグサリと胸に突き刺さるような台詞をまじえ、やりきれない思いを感じつつ、それらを笑いに包んで人の弱さや必死さを責め立てることをしない松尾さんの筆致はやさしい。
あの飄々とつかみどころのない演技と併せて、本当に何て人なんだと思います。

冒頭の交通事故の直前、杏子さんは「さっき、神はいる、ということを簡単に説明できるとひらめいた」と言っていました。
それをこういちに説明しようとしていた時に事故が起きたのでそれを聞くことはできませんでしたが、「神はいるのか」という問いがこの作品の中にはずっと流れているようでした。
だけどその答えを私は感じ取ることができなくて、それが少し残念だったかな。


役者陣はさすがの高値安定。
全体的な印象としては女優陣はパワフル、男性陣は愛らしい感じでした。
平岩紙ちゃんのみどりは、エキセントリックかと思えば、損得なしの15分のデートを心から喜ぶいじらしさも可愛くて、清濁あわせもつような女性。素敵でした。
伊勢志摩さんのアンドロイドっぽい強い女もカッコよかったなぁ。

ラストはみどりが「石を投げられる女の踊り」的なものを踊りながら幕。
人生は悪あがきの連続。わかっちゃいるけどやめられない。
そんな悪あがきの踊りを続けているのが人間なのよ、と言われているようでした。



開演前アナウンスは猿時さん。「この公演はカーテンコールはありません」と最初から宣言 のごくらく地獄度 (total 1826 vs 1830 )


posted by スキップ at 23:01| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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