2017年08月19日

10歳にも10年分の人生がある 「子供の事情」


kodomo.jpg放課後の教室。
そこで楽しそうに話したり遊んでいる子供たちがいるまま、教室が奥へ奥へと遠ざかって行くきます。

それが二度と戻ることのない自分の小学生時代と重なって
夏休みが終わってしまう、あの何ともいえない切なさとも似て
不意に涙があふれました。
それまでケラケラ笑いながら観ていたのに。


シス・カンパニー公演
「子供の事情」
作・演出: 三谷幸喜 
音楽・演奏: 荻野清子 
美術: 松井るみ 
照明: 服部 基
出演: 天海祐希  大泉洋  吉田羊  小池栄子  林遣都  
青木さやか  小手伸也  春海四方  浅野和之  伊藤蘭

2017年8月5日(土) 1:30pm 新国立劇場中劇場 1階5列(2列目)センター
(上演時間 2時間35分)



物語の舞台は世田谷区立楠小学校4年3組の教室。
時は昭和46年(1971)4月。
この4月のある日、このクラスに転校生が現れてからの1年間を描いています。

皆が塾や習い事で忙しい中、いつも放課後残っているのはいつも同じ顔ぶれ。
クラスで一番頼りにされているアニキ(天海祐希)
クラスで一番勉強家(でも成績はよくない)ホリさん(吉田羊)
クラスで一番の問題児ゴータマ(小池栄子)
いつもゴータマにくっついているおばあちゃんと二人暮らしのジゾウ(春海四方)
恐竜博士のドテ(小手伸也)
人の言うことを何でもオウム返しするリピート(浅野和之)
しっかり者の学級委員ソウリ(青木さやか)
みんなのことを観察してあだ名をつけているホジョリン(林遣都)

彼ら8人は自分たちを「スーパーエイト」と呼んでいます。
ここに、子役として芸能活動をして放課後に特別授業を受けているヒメ(伊藤蘭)も加わって、ゆるいながらも緊張感もある子供らしいパワーバランスの人間関係が形成される中、転校生のジョー(大泉洋)が現れて、その人間関係に微妙な変化をもたらします。

半ズボンはいた林遣都くんが、「こんにちは。三谷幸喜です」と言って、「これは僕が10歳の頃の話です」と続けますが、プログラムの三谷さんのコラムによると、「ホジョリンは僕自身ではありません。他の登場人物たちもモデルは一切いません。描かれるエピソードはすべて僕が頭の中で考えたことです」ということでした。


エピソードとしては、

ドテくん水道から直飲みやめて事件
学芸会のお芝居事件
揚げパン強奪事件
恐竜の化石発見事件
学級委員選挙にソーリ落選事件
ヒメの答案すり替え事件
ホリさん事件

といったところでしょうか。
描かれている一つひとつのエピソードの中で全員にそれぞれ見せ場があり、謎解きのエッセンスを加え、勧善懲悪の結末の後に用意された切なさ。
脚本も演出も、三谷さん、お見事でした。


「10歳の子供の話ってどーよ?」と観る前は思っていたのですが、もちろん具体的なエピソードの違いはあっても、全員が10歳ならばそれは私たちが大人同士の世界の中であれこれもがいていることと結局は同じなんだなと思いました。
誰がクラスのリーダー格で、あの子は誰についている・・・なんていうパワーバランス、確かにあの頃あったよなぁと懐かしみながら、それって形こそ変われど今も同じだなと思ったり。

彼らが保っているそのパワーバランスをかき乱すジョー。
アニキを孤立させ、リピートを学級委員にしてソーリの地位を奪い・・・と巧妙に一人ずつ追い落としていきます。

私も小学5年生の時、「転校生」だったのですが、ジョーのようにクラスを牛耳ろうなんて大それたことは考えたこともなく、ただでさえ目立つ存在だったのでひたすら溶け込もう溶け込もうと少し萎縮もしていたな、とちょっぴり切ない思い出も蘇ったり。
(ま、すぐ慣れて、6年生の時には「え?転校生だったの?」と驚かれたりもしましたが。)

エピソードの中では「揚げパン強奪事件」がお気に入り。
子供の頃って、ちょっとした思いつきでそれが大事件になるなんて思いもせずに盛りあがってしまうこと、あるよね~。
ミュージカルのアンサンブルのように全員で歌う ♪あげパンとうーどん あげパンとうーどん が休憩の間じゅう耳から離れませんでした(笑)。
アニキのやったことはもちろん正しかったけれども、私がもしゴータマ側だったら、「ちぇっ!なんだよ~」くらいには思ったかもしれません。

ラストのエピソード、ホリさん。
ホリさんは、家族の事件という過去があって、「その日」には興味本位のマスコミに追われる存在・・・というのが最後の方にわかるのだけれども、それまで「きょうだい」と言っていたのはさり気ないミスリードだったのかな?
それまで幾度か語られた「その人」の存在を、私も何となく男子生徒だと思わされていたフシがあります。三谷さんにまんまとヤラレましたな。

このことをきっかけにジョーの企みが露見するのですが、それはアニキ一人が気づいて、ジョーの元いた小学校まで調べに行ってすべてを一気に解明する、というのがいきなりスーパー過ぎかなぁという気がしないでもありません。
三谷さん、最後 尺がなくなっちゃったの?と思ってしまうくらい。


役者さんたちは衣装や拵えはともかく、とりたてて子供っぽい話し方や仕草をするでもなく。
さすがにこのキャストだから万全だし、三谷さんのあて書きがこれ以上ないというくらいハマっていました。

アニキの天海祐希さんは、トーンとしては少し抑えめかなという気がしましたが、ほんとにこんなあだ名だったんじゃない?と思える納得感。
「一つのクラスに二人もアニキはいらない!」って啖呵、カッコよかったです。
ヒメの伊藤蘭さんの子役のオーバー芝居には散々笑わせていただいたし、青木さやかさんのソーリはいかにもあんな学級委員いたよね、という感じ。
吉田羊さんのあんなタイプの役は珍しいなと思ったり、逆に小池栄子さんはイメージ通りだけどどんな役も本当にすばらしいです。
ゴータマというと、ドテの恐竜の化石事件の時、職員会議の席に謝りに行って教室に戻り、謝りに行くのを怖がるジョーに「大丈夫よ。少しの間下を向いて肩をふるわせてたらいいんだから」と言ったのが超好きでした。

三谷さんのお芝居との相性のよさを感じる大泉洋さん、ラストはちょっとかわいそうだったけど。
半ズボンと白いソックスがお似合いの育ちのいいお坊ちゃん風がいかにも三谷さんの少年時代を思わせた林遣都さん、逆にどう見てもおじさんなんだけど不思議に小学生にも思えてくる春海四方さん、小手伸也さん。
今まで誰かの言うことをそのまま繰り返してばかりいた浅野和之さん扮するリピートが、最後の一番肝心なところできっちり自分の言葉を言い放つところもグッときたなぁ。


「10年間の人生を積み重ねてきた」子供たち。
彼らの先には気の遠くなるような長い道のりが続いているけれど、それはこの10年の積み重ねであり、もっといえば1年ずつ、ひと月ずつ、1日ずつの連なりでもあるのだなぁと、何だか生きることが愛おしくなるような舞台でした。


冒頭に書いたラストシーンの後、新国立劇場中劇場のあの深い深い奥から全力疾走で舞台前に戻ってくる出演者たち。
横一列になって、劇中で歌った「スーパーエイト」を「スーパーテン」に替えて歌います。


♪つらいことがあったなら スーパーテンに聞いてごらん
 何の役にも立たないけれど 少しは楽になるよ

 そして
 いつまでいるのさ 早く帰れよ~
 と、放課後に残っている子供たちへの言葉がそのまま観客への呼びかけになっているのも三谷さんらしいウィットでした。




もうWOWOWでオンエアされるのですって。うれしいけど早過ぎじゃない? のごくらく地獄度 (total 1263 vs 1265 )


posted by スキップ at 22:54| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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