2017年08月12日

松竹座 七月大歌舞伎 夜の部


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仁左衛門さん源五兵衛のこの特別ポスターを見た瞬間、「ずるい」と思いました。
これ、絶対観ずにはいられなくなります。もちろん最初から観劇予定ではありましたが。
(右のポスターは2011年版の使いまわしだよね)


大阪松竹座新築開場二十周年記念
関西・歌舞伎を愛する会 第二十六回
七月大歌舞伎 夜の部

2017年7月20日(木) 4:00pm 松竹座 1階3列下手/
7月27日(木) 4:00pm 3階1列センター
(上演時間 4時間5分)



一、再春菘種蒔  舌出三番叟
出演: 中村鴈治郎  中村壱太郎


三番叟は本当にいろいろなバリエーションがあって、これまでにもたくさん観てきましたが、「舌出」三番叟は初めてでした。
振りの中にペロリと舌を出す仕草があるのが特徴でしょうか。

お父様よりご子息の方が踊りはお得意のようにお見受けしましたが、いかにも福々しい鴈治郎さんは三番叟にぴったり。
踊りは楷書できっちり品よくお行儀もよく。
壱太郎くんの千歳のは凛とした姿の美しさもさることながら、足さばき(というのか?)の軽さにいつもながら感心。
まるで羽でもはえているかのように音もたてずに進むかと思えば、トンッと小気味よく踏み鳴らしたり。


二、通し狂言  盟三五大切  
  序 幕  佃沖新地鼻の場/深川大和町の場  
  二幕目  二軒茶屋の場/五人切の場
  大 詰  四谷鬼横町の場/愛染院門前の場
作: 四世鶴屋南北
補綴・演出: 郡司正勝
演出: 織田紘二
出演: 片岡仁左衛門  市川染五郎  尾上松也  中村壱太郎  中村鴈治郎  中村時蔵 ほか 



自ら斬り落した小万の首をまるで宝物のように懐に抱える源五兵衛。
降り出した雨に小万が濡れないようにやさしく懐に抱え込む仕草。
傘をさして、雨空を見上げる視線。
愛する女の首を懐に花道を行く姿はまるで道行き。

劇場中がことりとも音をたてない緊迫感でただ見つめていました。
まるで魂ごと吸い寄せられたかのように。


仁左衛門さんで「盟三五大切」を観るのは三度目です。
初めて観たのは2008年の歌舞伎座で、その時がこの演目を観た最初でした。
その次が2011年の松竹座。
花形歌舞伎の染五郎さん、コクーン歌舞伎の橋之助(現 芝翫)さんと源五兵衛を観てきましたが、私にとっては盟三五大切=仁左衛門さんと言える演目です。

2008年11月歌舞伎座の感想
2011年2月松竹座の感想


ひと言でいえば「凄まじい」。
多分6年前に観た時より容姿の衰えはあったのかもしれません。
しかしながら、綺麗とか色気とか殺しの美学とかを超越した、まさに鬼気迫る源五兵衛にひれ伏す思いでした。

源五衛門は「主君の仇討ちの列に加わる」という大望を持ちながら、女に入れ上げ、借金のため家財道具を売り払ってその日暮らしをするような情けない男。
騙されフラレた腹いせに大量殺人を犯した揚句、使用人にその罪をかぶってもらい、なお執拗に怨む相手を追い続けるような粘着質な人間ですが、どうしてこんなに惹かれてしまうのでしょう。


今回特に感じたのは迸り出る哀しさと、それと裏腹の狂気かな。

皆が寝静まった後、丸窓にまず刀の影が映り、続いて源五兵衛が影絵のように現れ、その影が障子を破って、ヌッと白い脚が部屋に入ってくる姿の凍るような美しさ。
この五人切の場の源五兵衛は無表情でまるで心を持たない殺人マシンのよう。
一方、四谷鬼横町の場では、愛する小万を眼前にして、迸り出る感情。

憎しみ、恨み、苦しみ、悔しさ、だけどぬぐい切ることのできない愛しさ。そして哀しみ。
小万の手に刀を握らせ、自らの手で子供を殺させる残虐。
「五大力」だったはずの小万の腕の彫り物が、「三五大切」になっていることを知った時の憤怒。
「あの人を助けて」という小万の言葉を聞いた後の修羅。
何度も何度も斬りつけて、小万をなぶり殺しにする冷酷な、まるで殺しそのものに陶酔しているような狂気。
小万の首を斬り落とす時の地の底から響くような声。
斬り取った小万の首をぐっと押し抱く時の苦さと切なさと哀しさの交錯した表情。

・・・言葉がない、としか言いようがありません。

「鬼」と呼ばれて、「その鬼には誰がした」と応じる源五兵衛。
騙されたと知った時、「人ではない」と三五郎や小万を罵った源五兵衛が、鬼となって、自ら人ではないものになってまで手に入れたのはただ一人愛した女の命。
それはやはり、たとえ歪んだ形だったとしても、究極の愛だったのか、と。
愛染堂に戻った源五兵衛が小万の生首を前に淡々とご飯を食べる様は、自分の中の憑き物を祓い「人間」に戻る作業のよう。
「おまえとこういう生活がしたかった」と呟く姿は、辛く哀しく、寂寥感が胸に迫りました。

時蔵さんの仇っぽく色気もある芸者の小万もとてもよかったし、松也くんの誠実で主思いの六七八右衛門には二回とも泣かされました。

そして、染五郎さんの三五郎。
私はこの三五郎という役がとても好き。
My best 三五郎は菊五郎さんですが、今回染五郎さんが初役で楽しみにしていました。
三五郎はただの小悪党ではなくて、親に勘当された鬱屈を持ち、その先には親の主筋への忠義心もあって、人を騙しても金が欲しいという切実さを持つ人物。最期の切腹の場面でそのあたりの心情と悲劇性の発露がお見事でした。
そして何より、小万があれほどぞっこん惚れ抜くのも納得の色気ある男前っぷり


とはいえ、この演目はやはり、仁左衛門さんの源五兵衛に尽きます。
沢山の人が死に、その犠牲の上に何食わぬ顔?で主君の仇討ちに加わって“義士”と崇められることへの、あるいは、その忠義という名の仇討ちそのものが、恨みによるものと何ら変わることはない“殺人”であるという、鶴屋南北のシニカルな視線も見え隠れする「盟三五大切」。
個人的にはあまり後味のよくない物語(だからこそ、「本日はこれ切り~」で締め括られるのでしょう)。
それでもこれほど惹きつけられるのは、一にもニにも仁左衛門さんの、忠義も狂気もすべて呑み込んだ圧倒的な源五兵衛によるものだと思います。




こんな源五兵衛、もう二度と観ることができないのではないかしら のごくらく度 (total 1258 vs 1261 )



posted by スキップ at 23:22| Comment(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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