2017年07月24日

ギャツビーだけどギャツビーじゃない 「グレート・ギャツビー」


gatsby.jpg井上芳雄さん主演でこの作品を上演すると発表になった時かなり話題沸騰で、その他のキャストの情報公開まで時間がかかったこともあってか「デイジーは誰だ?」的な憶測でネット上が賑わっていたことも、今となっては懐かしい。


ミュージカル 「グレート・ギャツビー」
原作: F・スコット・フィッツジェラルド
音楽: リチャード・オベラッカー
脚本・演出: 小池修一郎
音楽監督: 太田健
振付: 桜木涼介
美術: 松井るみ
出演: 井上芳雄  夢咲ねね  広瀬友祐  畠中洋  蒼乃夕妃  AKANE LIV  
田代万里生  本間ひとし  渚あき  イ・ギトン  音花ゆり ほか

2017年7月5日(水) 1:00pm 梅田芸術劇場メインホール 1階7列(4列目)下手
(上演時間 2時間50分)


物語: 舞台は1920年代のアメリカ・ニューヨーク。禁酒法の時代。
謎多き大富豪・ギャツビー(井上芳雄)の邸宅の隣に引っ越して来たニック(田代万里生)は、夜ごと行われるギャツビー邸のパーティに招かれます。ニックのまたいとこ・デイジー(夢咲ねね)は、裕福な家の息子トム(広瀬友祐)と結婚し一児の母となっていますが、トムにはマートル(蒼乃夕妃)という愛人がいて夫婦関係はぎくしゃくしていました。そのデイジーこそ、ギャツビーが5年前に別れた忘れられない恋人でした。やがてニックの手引きで二人は再開し・・・。


始まりはプールサイド。
バスローブ姿のギャツビーが登場。それを脱いで水着になった(この時代の水着を芳雄くんが着ているの見てちょっと笑いそうになっちゃったんだけど)途端に銃声が響いてギャツビーがプールに転落。
映し出された水面が血で真っ赤に染まっていく・・・というオープンニング。
ギャツビーの死から回想に入っていく展開です。

1991年に今作と同じ小池修一郎さん脚本・演出、杜けあきさん主演で宝塚歌劇で上演、2008年には瀬奈じゅんさんのギャツビーで再演されていますが、どちらも観ておらず、小池先生演出版は今回初見。
「デイジーを思い続けるギャツビーの一途な愛の物語」という印象です。
ビジュアルもとても綺麗。
王道の純愛悲劇をザ・プリンスの井上芳雄が演じているに尽きる、とでも言いましょうか。


gatsby2.jpg




でもね。
フィッツジェラルドの原作は、もちろんギャツビーのデイジーへ純愛が中心ではあるものの、煌びやかな世界の影の部分-彼のネガティブな面、貧富の差や人種差別といったアメリカが抱えている社会の歪み、そしてジャズエイジと言われたアメリカ資本主義の狂乱の時代を描いているものだと思うのです。

たとえば、生まれながらにして裕福に育った白人至上主義のトム・ブキャナンと対照する形で描かれる、働いても働いても貧しさから這い上がれないプア・ホワイトを代表する存在のジョージ・ウィルソン。ジョージの妻でトムの愛人でもあるマートルのヒリヒリするような上昇志向・・・といった雰囲気がとても稀薄。
だからこの作品は「ギャツビーだけどギャツビーとは別物」という感じ。

このあたり、昨年観た、スタッフやキャスト的にも予算のかけ方的にもグレードダウンと思われる(失礼!)内博貴くん主演、錦織一清さん演出の「グレイト・ギャツビー」の方がこの世界観はよく出ていたと思われるのはどうしたことでしょう。
これは役者さんの問題というより、やはり脚本や演出の方向性なのではないかしら。
原作とは違ったラストのデイジーの行動も個人的にはあまり好みではありません。

「宝塚の舞台みたい」という感想を散見したのですが、私はそんなふうには感じませんでした。
華やかさやコーラスやダンス、人海戦術の迫力は比べようがありませんから。
が、最後の場面に来て、「これか~」と思いました。
物語上では死んでしまった主役がラストに舞台の高いところ(宝塚だと大セリの上ね)に登場して晴れやかな表情で歌いあげる、って、宝塚歌劇の定番じゃん(笑)。


井上芳雄くんのギャツビーはとてもよかったです。
デイジーと恋を始めたばかりの若い頃と、世の中の負の部分にも踏み込んだ孤独な心を持つ現在との演じ分けが鮮やか。
クールで感情をあまり表わさないギャツビーがデイジーに会えた喜びで顔を輝かせたり、ゴルフ場でトムに過去を言い募られて激昂するなど、感情表現の振り幅も豊か。
相変わらず指先にまで神経が行き届いていて立ち姿や所作が美しく、タキシードの似合いっぷりもハンパない。
当然のことながら歌も聴かせてくれます。「夜明けの約束」よかったな。

デイジーは夢咲ねねさん。
ビジュアル申し分なく、宝塚時代から定評のあったドレスの着こなしや髪型などもとても似合っていました(ギャツビー邸に飾られていたデイジーの写真がねねちゃんの宝塚時代のスチールだったの、笑っちゃった)。
デイジーは私にとっては「弱くて打算的で身勝手」というイメージですが、この作品ではイヤな女感は薄めで、揺れ動く繊細さがクローズアップされていて、そのあたりよくハマっていました。
歌は元々あまりお得意でない上に井上くん相手では分が悪いことこの上ありませんが、今ミュージカル界を見渡してこの役をやれるヒロインが他に思いつきません。

夢咲さんはじめ、マートルの蒼乃夕妃さん、その妹 キャサリンの音花ゆりさん、ジョーダン・ベイカーのAKANE LIVさんとこの作品では宝塚歌劇出身の女優さんが主要な役に配されていますが、中でも印象に残ったのはデイジーの母 エリザベスを演じた渚あきさん。
品のよい良家の奥様で、いかにも古きよき時代のアメリカといった保守的な厳格さを併せ持つエリザベスを体現していました。

ニックの田代万里生くんも印象的。
ニックの温かくてやさしい視線のお陰で、何ともやり切れないギャツビーの死が少し救われた思い・・・そんなニック像、好演でした。歌が上手いのは言わずもがな。


上演が発表された時の期待感とは裏腹にチケットの売れ行きは芳しくないと聞いていました(実際企画チケットが次々発売されという井上芳雄主演ミュージカルらしからぬ事態)が、私が観た回は平日にもかかわらず1階はほぼ満席だった模様。
「ギャツビーだけどギャツビーとは別物」と先述しましたが、最初から「別物」と割り切ることができれば、純愛を貫いた男のロマンの物語として楽しめるのではないかしら。



でも私が観たいのは「ギャツビー」なのです の地獄度 (total 1246 vs 1256 )



posted by スキップ at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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