2017年05月18日

さあ、知るがいい フェードルを! 「フェードル」


phedre.jpgフランスの劇作家ジャン・ラシーヌが古代ギリシアの詩人エウリピデスの悲劇「ヒッポリュトス」から題材を得た作品。
1677年に初演されて以来、サラ・ベルナールをはじめとする名女優たちが演じてきたタイトルロール。
今回は「大竹しのぶありきの上演」といった趣きでした。


「フェードル」
作: ジャン・ラシーヌ
翻訳: 岩切正一郎 
演出: 栗山民也
美術: 二村周作   照明: 服部基
出演: 大竹しのぶ  平岳大  門脇麦  谷田歩  
斉藤まりえ  藤井咲有里  キムラ緑子  今井清隆

2017年5月13日(土) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 
1階A列センター (上演時間 2時間5分)



物語: アテネ王テゼ(今井清隆)の妃フェードル(大竹しのぶ)は義理の息子イッポリット(平岳大)に抑えきれない恋心を告白しますが、イッポリットは拒絶します。彼はテゼに反乱をおこした一族の娘アリシー(門脇麦)と思い合っていました。そこへ死んだと思われていたテゼ(今井清隆)が帰還。裏切りの露見を恐れフェードルを思う乳母 エノーヌ(キムラ緑子)は、イッポリットがフェードルに言い寄ったと王に嘘をつきます。激怒したテゼは一歩リットを追放し神々に念じて呪いをかけ・・・。


「周りは神様ばかり」とフェードルが嘆くシーンがありましたが、フェードルの祖父は太陽神で、その太陽神がかつて愛の女神アフロディテに恨みを買ったたために、フェードルはアフロディテの呪いを受け、不義の恋に身を焦がす運命を背負っている、といういかにもギリシア神話ベースな設定。
ですが、フェードル自身は、激しい恋情と苦悩、後悔、嫉妬、怒り、絶望といった感情を露わにして、とても人間的。

直情的で自分勝手ですが、自分自身をきちんと把握する理性も、呪われた運命を受け容れる肚も持ち合わせているフェードル。
言うことなすこと無茶なのだけれど、どことなく憎めなくて可愛い。
イッポリットが女や恋には全く興味のない人物だということで、「つまりライバルはいないということよ」と喜ぶかと思えば、テゼから彼がアリシーと恋仲であると聞かされた時の茫然自失ぶり。
嫉妬のあまり「アリシーをなきものにしなければ」とつぶやいていましたが、多分この時、自分の運命もはっきり自覚したのではないかなと思います。

死んだと思っていたテゼが突然帰ってきたことで混乱してエノーヌに言われるままにイッポリットに不義の罪をなすりつけたものの、その罪深さも、それを自らが贖わなくてはならないことも、わかっていたはず。
エノーヌを追放した時、フェードル自身も死を覚悟していたのではないかしら。


その感情の起伏激しいフェードルを、大竹しのぶさんが、まさに憑依したように演じ切っているという印象でした。
過剰なまでの感情の発露を緩急自在に描き出して、顔や身体表現はもちろん、声までも表情豊か。
すっくと立って、
「さあ、知るがいい フェードルを!」とフライヤーにも書いてある台詞を言い放った時の他を圧するような存在感。
これぞ大竹しのぶ、なタイトルロールでした。

平岳大さんのイッポリットはいかにも武人といった硬質な雰囲気と高潔さが前面に出ている印象。
いわゆる「お育ちがいい」感じです。
父王テゼに責められた時、「これ以上は王の名誉を守るために」と本当のことを明かさないイッポリットが何とも歯がゆいというかじれったいというか。
王の名誉を守ったことが自分の命を落とすことに繋がる訳ですから、何とも切ないです。
(しっかし、テゼ王の方もいくら猜疑心に苛まれているとはいえ、少しは聞く耳持ったり真実を見通す目を持ってよ、とは思いました。)

フェードルにはエレーヌ(キムラ緑子)、イッポリットにはテラメーヌ(谷田歩)という従者がついていて、この2人が役も役者さんもとてもよかったです。
「恋をしているのね」とすぐわかっちゃうくらい2人ともその主人のことをよく理解して身近にいて、仕事である以上に献身的でかけがえないない存在であるよう。
谷田テラメーヌがテゼに涙を流しながらイッポリットの最期を語るシーンは切なくて苦しくて耳を塞ぎたくなるほど。
あの時の死の描写、以前にもどこかで聞いたことがあるなぁと思ったのですが、結局思い出せず。「イリアス」だったかなぁ。

朗々と響く声と威厳ある佇まいがいかにも王の 今井清隆さんテゼ、気高く清廉。透明感も持ち合わせた 門脇麦さんアリシー。


ラスト。
それまで閉塞感を表すようにそびえ立ち閉ざされていた灰色の壁が徐々に開いて白い光が差し込む舞台。
その光の中を、イッポリットの衣服を手に、白いドレスを赤い血で染めて呆然と歩くアリシーの姿が、悲劇を浮かび上がらせているようでした。


会場に入ると舞台が客席に向かって鋭角に飛び出していて、「私の席 あのへんだよなぁ」と思いながら兵芸の階段状の客席通路降りて行ったら、まさしくその真ん前で、役者さんたちが幾度となくその突端に立って台詞を放つ迫力ときたら。
大竹しのぶさんフェードルが台詞を言いながらその横の階段を降りて来た時なんて、「私に向かって迫ってきた」(違)と逃げ場のない思いになったくらいです。



あんなに間近で役者さんを観たのは近来稀にみる  のごくらく度 (total 1215 vs 1219 )


posted by スキップ at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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