2017年05月02日

善と悪は2つに分けられない 「エレクトラ」


elektra.jpgエレクトラ(とオレステス)といえば、2006年に藤原竜也くん主演で観た蜷川幸雄さん演出版「オレステス」がとても印象深いです。
あの舞台がエウリピデスの単独作だったのに対し、今回はアイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの3作品合体・・・とはいうものの、いずれも読んだことがないので、どんなふうにうまく(あるいは逆に不味く)組み合わされているかよくわからないのですが。


りゅーとぴあプロデュース 「エレクトラ」
作: アイスキュロス  ソポクレス  エウリピデス 
   「ギリシア悲劇」より
上演台本: 笹部博司 
演出: 鵜山仁 
作曲・演奏: 芳垣安洋  高良久美子
出演: 高畑充希  村上虹郎  中嶋朋子  横田栄司  仁村紗和  麿赤兒  白石加代子

2017年4月30日(日) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階C列下手
(上演時間 2時間50分)




物語: アルゴスの王アガメムノン(麿赤兒)は神からのお告げを受け、トロイア戦争を終わらせるために自分の長女イピゲネイラを生贄として差し出します。妻のクリュタイメストラ(白石加代子)はその悲しみと怒りから情夫アイギストス(横田栄司)と企んでアガメムノンを殺害します。
次女エレクトラ(高畑充希)は母への憎悪を募らせ、ついに他国へ亡命させた弟オレステス(村上虹郎)と共に父の復讐を果します。
しかし、オレステスはその罪悪感から狂気に陥り、アルゴスの人々は2人を死刑にすることを決めます。


神が支配する世界。
アガメムノンへの「神のお告げ」に始まり、ここぞ、という場面でアポロンやアテナといった神々が登場して采配し、愚かな人間たちを導きます。
そうそう、ギリシア悲劇ってこうだったよねーと思いました。



アイギストスが今まさにオレステスに殺されようとする時、自分とアガメムノンとのいきさつ、さらには遡って自分の父親とアガメムノンの父親との確執などを往生際悪く言い立て、「ここでお前が俺を赦すことが負の連鎖を断ち切ることだ」と言い放ったのが印象的でした。

自国の勝利と娘の命とを引き換えにしなければならなかったアガメムノンの葛藤、娘を殺した夫アガメムノンへのクリュタイメストラの憤怒、父を殺した母クリュタイメストラへのエレクトラの憎悪・・・まさに「負の連鎖」です。
これらすべてが神々の采配のうちに起こったことだとすることで、ある意味救いにもなっているのかもしれません。
「全ては神に定められている」それを人は「運命」として受け容れてきたのではないか、と。

一方、アポロンの「善と悪は2つに分けられない」も強く心に残りました。
つまり、「善と悪は一つ」。

正義の中にも悪いことが含まれていて、神である自身の中にも邪悪なものはあるとアポロンは言います。
元より人間は、それ自身の中に神の血と獣の血の両方を含んでいて、紀元前の古代ギリシアの時代から悠久の時を経た今もなお、人間は愚かな争いを世界の各地で絶えることなく繰り広げています。

いかにも人間的なアガメムノンと神アポロン、人間の業むき出しのクリュタイメストラと女神アテナ、それぞれのニ役を麿赤兒さんと白石加代子さんが兼ねているところにも、演出家の意図とメッセージを感じました。


ステージ中央にオベリスク風の大きな円柱が1本。
その柱が二幕では飛んで中から小さな女神像が現れるシンプルな舞台装置(美術:乘峯雅寛)。
時として不穏な不協和音を奏でる生演奏。
悲劇の物語ではあるものの、客席から笑いももれる台本と演出。

役者さんは皆熱演。
よく通る声、凛とした強い眼差しの高畑充希さん。
やはり映像で見るより舞台が断然いい!
エレクトラがエキセントリックな女性なので終始テンション高いのも納得ですが、今少しの緩急と、相手役との空気感が欲しいかなとも思いました。
一幕の見どころのひとつ、白石加代子さん演じるクリュタイメストラの対峙シーンが、丁々発止のバトルではなく、それぞれの独白のように感じたのはどうしたことでしょう。
死んだと思い込んでいたオレステスが目に前に現れ、最初は信じられなかったのに、オレステスがペンダントにしていた「父さんの形見の指輪」見せるとみるみる表情も声も変わっていくシーンには思わず目頭が熱くなりました。
その後のはしゃぎっぷりもかわいい。ちょっと大竹しのぶさん入ってたかな?

オレステスは村上虹郎くん。
ドラマ「仰げば尊し」で大注目していたのですが、舞台で拝見するのは初めてです。
高畑さんほど圧は強くないけれど(笑)、透明感があって繊細で、心の痛みや苦しみがまっすぐに伝わる演技で好感。

どの役を演じても独特の重厚感と存在感の麿赤兒さん、出てきたと思ったらあっという間に殺されちゃって「えー、もっと~」と思ったけれど、相変わらずいい声いい男っぷりの横田栄司さん、これが初舞台という常識派の妹クリュソテミスの仁村紗和さん。

キャストをあまり把握していませんでしたので、二幕になって中嶋朋子さんが登場してびっくり。
一幕観ながら「竜也くんオレステスの時、エレクトラは中嶋朋子ちゃんだったよね~」とぼんやり考えていたから。
「イピゲネイラ。アルゴスの王アガメムノンの娘です」と言うのを聞いてさらにオドロキ。
生きていたのか、イピゲネイラ 
中嶋さんは本当にいつも期待を裏切らない。しなやかで強く、美しい。
感情を昂ぶらせる時も静かに語るときも、ちゃんと言葉が届く台詞術。

そして、白石加代子さん。
舞台中央に立つアガメムノンを伺いながら身を屈めて出てくるところから目が離せません。
声を発しなくても放つ存在感は見事というほかありません。
クリュタイメストラを演じられるのは4度目ということで、手の内の役という感じですが、それはもう一方の役の時に起こりました。

終盤、トアス王の前に現れた女神アテナ。
トアス王を諭しながら、何だか台詞のテンポがおかしい、と思ったらゆっくり下手袖に入っていきます。
「あれ?まだ台詞途中じゃないのかしら?」と思っていたら、すぐ出て来て続きを言った(!)
この状態は次にエレクトラとオレステスが客席から出て来た時も続いて、2人を舞台上に上げた後、しばし沈黙→舞台袖に引っ込む→待つ間 村上くん苦笑い・・みたいなことになって、ついに白石さん 台本を手に登場。
ふわりとしたドレスの袖で隠すような素振りもしていらっしゃいましたが、開き直ったのか台詞を言う時は手に持って朗読状態(とはいえ、大変感情のこもった見事な朗読でございました)。

白石さんはもちろん、他の役者さんでもこれほど台詞飛んだ人を観たことないワ、というあまりな状況に「ご体調でも悪いのかしら」と心配になりましたが、カーテンコールの様子ではそういうことでもなさそうでひと安心。
が、そんなあれこれが気になり過ぎて、アテナの台詞は元より、ラストのエレクトラの「アポロンの予言通り、未来を信じて生きていこう」みたいなモノローグが全く心に入って来なかったのが残念の極みでした。

カーテンコールのラスト。
下手側から仁村さん、高畑さん、白石さん、村上くんと並んで登場して、白石さんが、「朋子ちゃん、朋子ちゃんも来て。子供たちは私を守って」と中嶋朋子さんも呼び寄せました。
挨拶を促されたた高畑さんが、「皆さんは大変レアな回をご覧になって・・・」というと客席から笑いと拍手。
村上くんは「「1回だけー」と客席に向かって大きな声でフォロー。

白石さんは「ごめんなさい」とおっしゃっていましたが、「こんなレアな時間を皆さんと共有できてよかったです」とダメ押しする(?)高畑充希ちゃんの機転の効いたコメントで、客席中が温かい空気に包まれました。
悲劇も失敗もチャラにする、いかにもギリシア悲劇らしい幕切れでした。



舞台の申し子のような大女優さんでもあんなことあるのね~ の地獄度 (total 1744 vs 1749 )



posted by スキップ at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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