2017年03月21日

すぐそこに迫る未来 「ザ・空気」


kuki.jpg高市早苗総務大臣の「電波停止」発言を受けて、田原総一朗さんをはじめとする7人のジャーナリストが「私たちは怒っている」と声明文を発表したのはちょうど1年前の今頃だったでしょうか。

「表現の自由」と「報道の自主規制」。
とてもタイムリーかつ深刻な題材が、一視聴者である私たちにもリアリティを持って目の前に迫ります。
永井愛さんの危機感と「今これを伝えなければ」という強い意志を感じる作品。
今、目撃すべき舞台だと思いました。


二兎社公演41 「ザ・空気」
作・演出: 永井愛
美術: 大田創  照明: 中川隆一
出演: 田中哲司  若村麻由美  江口のりこ  大窪人衛  木場勝己

2017年3月18日(土) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階H列下手
(上演時間 1時間45分)



物語の舞台はあるテレビ局。
報道の自由と放送規制のあり方を検証する特集のオンエア当日、編集長の今森(田中哲司)は番組アンカーの大雲(木場勝己)から政治的公平性を理由に一部修正を提案されます。応じない姿勢の今森に、キャスターの来宮(キノミヤ/若村麻由美)、ディレクターの丹下(江口のりこ)、編集マンの花田(大窪人衛)、それぞれの思惑、そして局内の見えない“空気”が絡み、番組は似て非なるものへと・・・。


白とグレーの無機質なモノトーンで二階建構造になった舞台装置。
5つのドアが部屋の入口になったりエレベーターの扉に見立てられたり。
中心となるのは中央の窓の向こうに非常階段が見える部屋。
この部屋は、今森や来宮のかつての同僚で気鋭のジャーナリスト 桜木が自殺した部屋でした。

表現の自由の危機に警鐘を鳴らそうとする特集番組が改ざんされていく過程、ジャーナリストたちの抵抗と挫折がリアルに展開。
そこには政権の意向をくむ経営陣の自己規制あり
それぞれの立場上の保身あり
そんな中、極右団体からの脅迫状、子どもを装ったネトウヨ?からの電話、来宮の母や来宮自身を盗撮した写真などが畳み掛けるように彼らに襲いかかり、それぞれに動揺し迷い、特番のあり方も刻一刻と変化していきます。

短絡的に権力 vs 正義の構図として描くのではなく、各人の主張や行動に心を寄せることができるのは永井さんの筆致ならでは。
内外からの様々な圧力に屈する形で、番組が当初企画されていたものと形を変え、それに伴って主張する観点も全く別物になってしまう過程には、苦さと同時に空恐ろしさを禁じ得ません。


志半ばで自殺した同僚を思い、真実の報道を守ろうと正義感を持って立ち向かいながら苦悩し、追い詰められ妥協した自分を持ちこたえることができなかった今森 田中哲司さん。
今森と同様、かつての恋人でもあった同僚の遺志を貫き通す覚悟を持ちながら、「もう戦わなくていいんだ」という言葉に込めた思いの複雑さと安堵が交錯する来宮 若村麻由美さん。
混乱する現場で内圧にひるみ、揺れ動きながらもジャーナリストとしての自覚に目覚めていく丹下(事件後、TV局を辞めてバイク便のアルバイトをしているその後も含めて好感) 江口のりこさん。
イエスマンのようでいて「空気」を読むことに長けた今風の若者 花田 大窪人衛さん。
一貫して経営側(というか権力側?)という強固な姿勢を崩さず、憎々しいほどに老獪で狡猾な大雲 木場勝己さん。

役者さんは5人5様 皆くっきり。


ラストに描かれる2年後。

今森が入院していた2年の間に、「憲法が改正され、政府はいつでも好きな時に非常事態宣言を出せるようになり、特定機密法が報道する側を具体的にも縛り・・・」と語られる今。
これは現実ではないけれど、とてもnearly
すぐそこに迫っている未来のように感じて、また怖ろしくなったのでした。

これからは調査報道をしようと思う、と語る今森に、会社の経営側に立った来宮が「あなたといるだけで私も危険」と一旦立ち去りますが、また戻って来て、そんな2人の上空に鳴り響くヘリの音。
それはまるで、迫りくる時代の爆音のように聞こえました。


「空気読もうよ」「そんな空気じゃない」と私たちは気軽に口にするけれど、それがもたらす本当の怖ろしさ、そしてそれをこういう形で提示してくれる演劇というもののチカラを感じる舞台。
開演前のロビーで、永井愛さんがDVDや書籍を買った人にサインをされていたのですが、とてもやさしい微笑みを絶やさない上品な女性で、あの穏やかな方のどこにこんなパワーが潜んでいるのだろうと思いました。



この怖さはある意味 近未来ホラー のごくらく度 (total 1721 vs 1725 )


posted by スキップ at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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