2017年03月17日

ストリンドベリ交互上演 Ⅰ 「令嬢ジュリー」


juli.jpgストリンドベリといえば、昨年観た「夢の劇 -ドリーム・プレイ-」がワタシ的にハードルが高く、いささか苦手感も漂うところではありますが、「代表作2作を連日交互上演」「シアターコクーンを割って舞台側、客席側それぞれに特設の小劇場をあつらえ、ふたつの世界が響き合うよう演出」という試みに演劇的興味を刺激されての観劇となりました。

両作とも緊張感にあふれた舞台でしたが、まずはこちらから。


シス・カンパニー公演 「令嬢ジュリー」
作: アウグスト・ストリンドベリ 
上演台本・演出: 小川絵梨子
美術: 松井るみ  照明: 原田保
出演: 小野ゆり子  城田優  伊勢佳世

2017年3月11日(土) 2:30pm シアターコクーン Y列(最前列 特設S席) センター
(上演時間 1時間20分)



階級社会が色濃く残る19世紀末のスウェーデン。
夏至祭の夜、伯爵令嬢ジュリー(小野ゆり子)は、伯爵家の下男下女や農民など身分の低い者たちと踊り明かしていました。
下男ジャン(城田優)と婚約者の料理女クリスティン(伊勢佳世)が台所で「婚約が破談になり、おかしくなってしまった」とジュリーのことを話しているところへ彼女が現れ、自分と踊るよう命令します。最初は取り合わないジャンでしたが、クリスティンが眠りについた後、二人きりで言葉を交わすうちに・・・。


男と女
貴族と平民
支配者と被支配者
火花散るような台詞の応酬の中で、その上下関係がドラスティックに入れ替わるスリリングな会話劇。

「高いところから下へ落ちて行く夢」をよく見るというジュリー
「何とか上に這い上がろうと必死になる夢」を見るジャン
気位が高くわがままなジュリーに翻弄されるジャンでしたが、その二人の関係が共に過ごした一夜を境に一変。

身分差という鎧を脱いで、素直に無防備に愛を求めるジュリー
野心を露わにし高圧的に豹変するジャン


大切にしていたカナリアを旅の邪魔になるからと殺され、「幼い頃からあなたに憧れていた」という言葉さえジュリーの気をひくため・・・ひいてはジュリーからお金を出させるためのものだったと知った時のジュリーの絶望を思うと胸が痛みますが、そのジャンにしても、伯爵が帰館して呼び鈴が鳴ると、それまでの傲慢が嘘のように反射的に従属してしまうという、生まれながらに染みついた下層階級の心根から逃れられないでいるのです(彼はそれを「制服を着たから」と言っていましたが)。
彼は彼なりに、今の状況から脱したい、自分の運命を変えたいと必死でもがいているようにも見えました。

19世紀のスウェーデン、ヨーロッパの階級社会について詳しくありませんので、「下男と一緒にいるところを見られる」ことをなぜあれほど恐れるのか実感としてわかりにくいところではありますが、あんなふうに恐怖を煽ったのもジュリーを自分の部屋へと逃げ込ませるためのジャンの策略だったのでしょうか。

どちらが悪いとかどちらが正しいというのではなく、それぞれ自分の運命に精一杯抗っているような二人が何とも切なかったです。
そこに、信仰深く、自分の身分と運命を受け容れてブレないクリスティンの揺るぎなさを配したことで、より一層二人との対比が鮮やかでした。

「神様が誰を救ってくれるかわかっている」と凛と背筋を伸ばしてクリスティンが教会へと向かって上った階段を、ジャンに渡された剃刀を手に蒼白な顔をして、まるで断頭台へ上がるようなジュリーが痛々しかったです。


その階段が舞台下手に大きく設けられ、そこが社会との唯一の接点のように感じられる地下室のような邸の台所だけで繰り広げられる物語。
中央上の高い天窓から差し込む光だけが、まるで届かぬ希望のように見えました。


舞台、映像通じてこんなに台詞たくさん話す城田優くんは初めて、という感じでしたが、さすがにいい声で台詞も明瞭。
卑屈さと荒々しさ、優しさと残酷さ・・・感情の起伏が激しいジャンを緩急よく。
下男にしては少し綺麗すぎ、カッコよすぎかなぁという感が無きにしもあらずでしたが。
これがストプレ本格デビューということですが、これからもどんどんやっていっていただきたいです。

小野ゆり子さんは、「大森南朋さんと結婚した人だよねぇ」くらいの認識しかなかったのですが、2014年に観た「パン屋文六の思案」に出演していらっしゃいました(記憶にない、すまぬ)。

自由奔放に傲慢に振る舞う冒頭からどんどん変化していくジュリー。
ジュリーはわがままなお嬢さんが「女」になり、女が「人間」になったその先に悲劇が待ち受けているような難役ですが、内面的な成長も含めて、演じ分けが鮮やかでした。
ただ、このジュリーという役は、気品や美しさ、華やかさといった演技力以外の部分も要求される役なのではないかと思います。ひと目で召使いたちを凌駕するような。その点、小野さんはいささか地味な印象。ましてジャンがあのビジュアルですから。

伊勢佳世さんはイキウメ退団後、舞台出演が続いてご活躍ですが、さすがに安定した演技。
ジャンとジュリーの関係を知って、婚約者の裏切りに傷つきながらも「(お嬢様を)もう尊敬できないからこのお屋敷で働き続けることはできない」ときっぱり言い放つところ、信仰に守られているという自負に満ちていました。


特設舞台の最前列ど真ん中で、城田優くんジャンが舞台から降りてきて目の前に立った時にはどうしましょ、と思いましたし、カーテンコールでアンサンブルの皆さんが目の前数10センチのところに並んだ時には面映ゆくて直視できませんでした のごくらく地獄度 (total 1719 vs 1723 )


posted by スキップ at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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