2017年03月10日

君と歩く未来 「陥没」


kanbotsu.jpg「上を向いて歩こう」が流れるオープニング。

幸せは雲の上に
幸せは空の上に

そう。
大人も子どもも、みんなが上を、前だけを見てがむしゃらに進み、その先に幸せな未来が待っていると疑うこともなかった時代。
そんなよき昭和の時代の物語。


シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017
昭和三部作・完結編 「陥没」
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術: BOKETA  照明: 関口裕二 
音響: 水越佳一  映像:上田大樹
舞台監督: 福澤諭志
出演: 井上芳雄  小池栄子  瀬戸康史  松岡茉優  
     山西惇  犬山イヌコ  山内圭哉  近藤公園  趣里
     緒川たまき  山崎一  高橋惠子  生瀬勝久
声の出演: 峯村リエ  三宅弘毅

2017年3月4日(土) 6:30pm 森ノ宮ピロティホール F列下手
(上演時間 3時間20分)



物語の始まりは昭和36年(1961)。
アジア初となる東京オリンピックを3年後に控えた東京。
オリンピック景気を当て込んだ複合施設 オリンピア・スターパークの建設予定地で、湯たんぽ製造会社社長 諸星光作(山崎一)は 瞳(小池栄子)とその夫で会社の若き専務 木ノ内是晴(さだはる/井上芳雄)にこの施設に託す夢を語っていました。

日本中が沸き立っていた明るい時代。

これから建設されて人々で賑わうであろう施設。
仕事は順調で夫婦仲もよく、この先子どもにも恵まれ、幸せな将来が約束されているような若い夫婦。
・・・そんな幸せの絶頂を断ち切るように訪れる父である社長の不慮の死。

ここまでのシーンはセピア色の世界の中で描かれていて、これが過去の回想だということが感じられます。


「結婚行進曲」が鳴り響く中、新幹線が走り、ビルが林立していくというまさに「高度成長期」を描いたプロジェクションマッピング(相変わらず超カッコイイ上田大樹さんの映像)でキャスト紹介を挟んで、

2年後 昭和38年(1963)。
オリンピック1年前の秋、オリンピア・スターパークがプレオープンパーティを行った翌日。
ホテルを切り盛りする瞳は是晴と離婚。かつての父の部下 大門(生瀬勝久)と再婚していました。
前夫 是晴と20歳の結(むすび/松岡茉優)との婚約披露パーティがこのホテルで開かれ、是晴の母 鳩(犬山イヌコ)や弟の清晴(瀬戸康史)、結の恩師 八雲(山西惇)らが集まってくる中、ホテルに様々な問題が持ち上がります。
そこへ2年前に他界した父の諸星が幽霊となって現れて・・・。


昭和4年が舞台の「東京月光魔曲」(2009年)
昭和20年を描いた「黴菌」(2010年)
と続いて昭和の東京をモチーフにした「昭和三部作」完結編ですが、毒も不条理も妖しい雰囲気もなくて、前2作とはずいぶんテイストの異なった作品という印象。

新幹線やコカ・コーラ、テニスにボックスティッシュに家具みたいな東芝のテレビ、といったいかにも「昭和」なアイテムを散りばめながら、中心となって描かれるのは、是晴と瞳と結(と大門)を軸とした人間模様。大人の群像劇といった趣です。
そこへ、パパ幽霊の見張り役としてともに地上に降りてきた神様たちが使う「本音をしゃべらせる砂」とか「最初に見た人を好きになる薬」といったファンタジー要素を振りかけ(ちょっと「夏の夜の夢」っぽい)、登場人物のキャラクターも立って笑いが絶えず、ドリーミーでハートウォーミングな舞台に仕上がっていました。

長さを全く感じない舞台で、たとえは、山内圭哉さん演じる借金取り(を演じている合鍵屋)があんなに言われてたのにシャツのボタン外すの忘れて瞳の目の前で外すとか、綿密に計算されて組み込まれた笑いがいちいちおもしろくて、終始笑っているような感じだったのですが、切なさもあふれていました。

あの「砂」のせいで互いに本音をぶつけ合い、「大体 あんな若い子とっ!生徒手帳拾ったら警察に届けなさいよっ!可愛いかったから届けたんでしょう!」と是晴を罵倒して、彼が去った後、ロビーのソファで一人泣く瞳に思わずもらい泣き。
「憎み合ってるんだからもういいじゃない。帰ろ」という神様たちに、「何言ってるんだ。今の聞いてなかったのか?あんなに愛し合っているじゃないか!」というパパ幽霊に、「そうだ!そうだ!」と心の中で味方したよね~。
互いを思い合っているのにあんな言葉が出てしまう男女の機微、それがわからない役回りを人外のものに託すあたり、さすがケラさん、上手いなぁ。

悪事が露見して瞳と離婚して出て行くことになった大門(でも彼は彼なりに瞳のこと愛していたんだと思う)のあまりの往生際の悪さに、瞳を守ろうと激高する是晴。
ここの井上芳雄くん、あまり観たことない感じでとても素敵だったのですが、その様子を奥の椅子に座って見ていた結の無表情がとても切なかったです。
「答えは出たわね」という結。
それはきっと、彼女にはずっと前からわかっていた「正解」だったのだろうけれど、「そうじゃないよ」と是晴に言ってほしかったのだろうなぁ。


ラスト。

「ねぇ、落ち着いたら映画に行かない?」
「旅行もいいな。新幹線に乗って」
「海外にも行こうよ」
「宇宙にだって行けるようになるよ」
と瞳に語る是清。

未来はきっと明るくすばらしいんだと
そのすばらしい未来を君と一緒に歩きたいと

この言葉を聞いていたら
この言葉を聞いている瞳さんの背中を見ていたら
そうなったらいいなと思っていたハッピーエンドなのにポロポロ涙がこぼれてきました。
そこへ、「何で泣いてるの?」と清晴くんの無邪気な声。
ケラさん、お見事です。


井上芳雄くんと小池栄子さん、山崎一さんくらいしかキャストを把握していませんでしたので、オープニングのプロジェクションマッピングで役者さんの名前が映し出されるたびに、「この人も?」「あの人も出てるの?」と驚いてばかりだったのですが、さすがに皆さん役にピタリとハマってイキイキと物語の中を闊歩。

女にだらしない役をやっても品よい井上芳雄くん。
口跡よく、所作が綺麗なのはそのままに、今回は新たな一面も見せてくれました。
私が井上くんを最初に意識したのはミュージカルではなくストプレ(「組曲虐殺」(2013年)。その前に「ロマンス」(2007年)も観ていますが)。
歌う芳雄くんもいいですが、改めて彼のストプレ好きだなと思いました。

凛としながらもいつもの強い感じとは違った可愛らしさや頼りなさも醸し出す小池栄子さん。
とぼけた感じなのに洗練されて都会的。言動から目が離せないマドコマルヤマ(丸山窓子ね)緒川たまきさん(是晴さんのテイで瞳の心を引き出すシーン、好きだったなぁ)。
「心では笑ってない」笑顔が切なく哀しい結 松岡茉優さん。
胡散臭さの黒と白 生瀬勝久さん、山内圭哉さん。

・・・と挙げていったらキリがないのですが、今回最も心に残ったのは清晴を演じた瀬戸康史くん。
天真爛漫さとピュアさが何とも言えないおかしさを生み出します。
清晴くんはサヴァン症候群なのかな?
数字にはこだわりがあるようでしたが、同時に物事の本質を鋭く見抜く感覚も持ち合わせているようです。
「結」(むすび)をずっと「くすり」と呼んでいたあたり、ケラさんのこの役へのリキの入れようが垣間見えるようです。

瀬戸くんは、昨年観た「遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」でもすばらしかったのですが、これからも注目の役者さんとなりました。

バーカウンターのあるホテルのロビー。
大きな階段から部屋へと続くキャットウォークが設けられた立体的なセット。
大きな窓の向こうに見える色づいた木々、テニスコートへと続く戸口の外には紅葉の落ち葉。
舞台美術もステキでした。

そうそう、一つだけ気になることが。
神様たちがパパ幽霊と天へ帰る時に、「ほれ薬」を飲んだ人には効き目を消す薬をかけておく、と言っていましたが、それだと結ちゃんと一緒に車で逃げた船橋はどうなるのかな?
彼はほれ薬飲む前は「僕は結さんにそんな感情全くありませんから」と言っていましたが、あれは本音ではなかったのかしら。
結ちゃんの方は最初から船橋さんにシンパシー感じていたみたいだし、幸せになってほしいです。


日本で最初のオリンピックを前にした昭和のあの頃のように、
明るい未来が信じられる物語。
笑って泣いて、とても好きな作品となりました。


kanbotsu2.jpg



冒頭の公式ポスターは多分、瞳を見守るお父さんという構図なのだと思いますが、別バージョンのこちらも楽しい のごくらく度  (total 1716 vs 1719 ) 



posted by スキップ at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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