2017年03月09日

人生の「果て」が見える時 「ハテノウタ」


hatenouta.jpg若いころ、命というものにとても不遜な考えを持っていて、「いつ死んでも思い残すことなんてないけど、できれば死ぬ日がわかっていればいいのに」と思っていました。
「そしたら、その日までに行きたいところに行って、食べたいものを食べて、貯金もバーッと使う」と。

時が過ぎて、大切な人の命と向き合わなけれならないような場面も経験して、そんな傲慢な考えはもちろん改めた不肖スキップではありますが、「果て」が見える人生ってとても切なくて怖い、と改めて感じました。


MONO「ハテノウタ」
作・演出: 土田英生
出演: 水沼健  奥村泰彦  尾方宣久  金替康博  土田英生 
     高橋明日香  松永渚  松原由希子  浦嶋りんこ

2017年3月3日(金) 7:00pm ABCホール XA列(最前列)センター 
(上演時間 1時間30分)



物語の舞台は一見バラバラな年代の男女が集う、小学校の教室を模したカラオケボックス。
実は彼らは高校の吹奏楽部の同級生で全員99歳。
老化を止める薬が開発され服用しているため若いままの肉体を保っていますが、薬を購入するための経済的理由や、個人の倫理観から薬を拒絶するなどのために摂取量に差があり、それが外見の老化の差になって表れています。
若い姿のまま長生きしている彼らですがその生命は永遠ではなく、人口が増えすぎることを抑制するために法律で定められた「果て」があり・・・。


「同窓会」を招集したのは当時の吹奏楽部の部長 尼子(金替康博)で、明日100歳を迎える彼は、この日じゅうに定められたその場所(コンフォートセンターという名前で呼ばれていた)に行かなければならず、その最期の1日を自分が人生で最も輝いていたと思える高校時代の思い出とともに過ごしたいと考えているようです。

それぞれの人間関係、高校時代の出来事、そして、今の彼らを取り巻く政府がらみの状況などが、9人の登場人物の会話だけで明らかになっていきます。
当時流行っていた曲、つき合っていた彼女、片思いの相手、自殺してしまった顧問の先生・・・それぞれが語り合う思い出が共通の記憶として皆で盛り上がったり、ある人にとっては輝かしい思い出が、別の者にとっては触れられたくない過去だったり。

あぁ、そうだよな~と思います。
記憶って曖昧で、自分が望むように美化されていたり、覚えておきたくない出来事の記憶は封印してしまったり。
自分にとってはかけがえのない大切な思い出ででも、別の人には取るに足りないことだったり。
死を目前にしてそんなこと知りたくなかったと思ったり、もっと早く知りたかったと悔んだり。

・・・双子の圭(高橋明日香)と陸(浦嶋りんこ)が実は高校時代入れ替わっていたことがわかって、当時 陸に恋していた小板橋(尾方宣久)が「俺の高校時代が覆される~」と混乱してたの、おもしろかったな。


思い出の記憶は人それぞれ。
誰が正しくて何が正解かなんて誰にも言えないしわからない。
それでも、命が終わろうとする時を目前に、思い出を語り合える仲間がいる人生は豊かだったんじゃないかな、と思います。
それだけに、かつて自分が指揮した曲を笑顔で歌う仲間たちから一人すっと抜け出して、穏やかな表情で死に向かっていく尼子さんの後ろ姿の切なさは胸に迫ります。
そして、そのことに気づかないふりをして歌いながら見送る仲間たちにも。
ここにいる誰にも「その日」は確実にやってくる・・・その日に向かって物悲しさが積み重なっていくような余韻の残るラストシーンでした。


「自分の命すら国に管理されることのおかしさをベースに起きながらも、楽しい話にしたいと思います」と土田さんはインタビューでおっしゃっていましたが、感触としてはシニカルな中にもいつもの作品と比してよりウェットでエモーショナルな印象でした。


今回のキャストの目玉 浦嶋りんこさん。
双子だけど薬を飲む量が違うので、圭よりかなり年配になっていて、「私ってどう見える?」と終始気にしていて、弱気でウジウジしていてひがみっぽいネガティブな陸。
いつもパワフルで開放的な印象のりんこさんとのギャップが意外で新鮮でした。
普段通りのイメージの役だとおもしろくありませんから。
りんこさんにこういうキャラクターをつけるあたり、さすが土田さんだなと思います。

ただ、彼女が起用された理由の一つにあのソウルフルな歌唱があると思うのですが、そこはそれほど活かされているとは言い難かったでしょうか。
ラストはもっと爆発するような歌声を聴きたかったと思います。
それは彼女のせいというより楽曲が、かな。
いや、いい曲なんだけど。



「果て」に直面して、自分はあれほど穏やかな気持ちになれるだろうか の地獄度 (total 1175 vs 1179 )


posted by スキップ at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック