2017年03月06日

じゅうはち 「足跡姫 ~時代錯誤冬幽霊」


ashiatohime.jpg「中村勘三郎さんへのオマージュ」と銘打たれた作品。

「『足跡姫』と『猿若祭』は絶対一緒に観たいと思っていて、そう予定組んで正解だったと改めて思います。いっぱい泣いたけど、昨日勘九郎さん七之助さんの猿若と阿国を観ていたから、可愛い2人の桃太郎がいたから、希望を感じられたし、あのスッポンがあの場所に、かの人の思いに繋がっていると信じられた。」

これ、「足跡姫」を観て大阪への帰途、新幹線車中での私のツイートです。
「猿若祭」と一緒に観ていなかったら、個人的にはちょっとキツかったかもしれない、と思いました。
奇しくもこの日は、「猿若祭」千穐楽でした。


NODA・MAP 第21回公演
「足跡姫 ~時代錯誤冬幽霊」 (あしあとひめ ときあやまってふゆのゆうれい)
作・演出: 野田秀樹
美術: 堀尾幸男  照明: 服部基
衣裳: ひびのこづえ
作調: 田中傅左衛門 
振付: 井手茂太
出演: 宮沢りえ  妻夫木聡  古田新太  佐藤隆太  
     鈴木杏  池谷のぶえ  中村扇雀  野田秀樹 ほか

2017年2月26日(日) 2:00pm 東京芸術劇場プレイハウス 1階L列下手
(上演時間 2時間50分)




1月18日初日ですので、すでに1ヵ月以上上演されている作品ですが、自分が観るまでは情報入れない派なので、色々なレポや写真もスルーして、事前に読んだのは野田秀樹さん直筆のコメントのみ。
「舞台は江戸時代」「勘三郎さんへのオマージュ」という情報だけで臨みました。
2人の役名・・・阿国とサルワカも、上演が始まってから知って、「それって、まんま昨日観た『猿若江戸の初櫓』じゃない」と思ったくらいです。


江戸時代。
女歌舞伎一座の三、四代目出雲阿国(宮沢りえ)と弟で座付作家の淋しがり屋サルワカ(妻夫木聡)が城内での歌舞伎上演を目指す話を軸に、幽霊小説家(古田新太)、彼を追う腑分けもの(野田秀樹)、戯けもの(佐藤隆太)、取り締まる伊達の十役人(中村扇雀)などが入り乱れて物語は進みます。


「勘三郎さんへのオマージュ」と打ち出されていることもあってか、作劇としては前作の「逆鱗」やその前の「エッグ」のように、ある時点でドミノ倒しのように、まるでオセロの白黒が全部入れ替わるようにドラスティックに物語の本質が顔を出す、という展開ではないという印象でした。


花道と回り舞台を備えた芝居小屋風の空間。
野田さんお得意の言葉遊びあり、リズミカルなダンスあり、現代の戦争の映像が挟み込まれたり、劇中劇もあって、重層的に展開する舞台。
荒ぶる姫の憑依あり、幕府転覆を目論む由比正雪あり、権力に虐げれる民の悲しみと怒りあり。

そんな物語はありつつ、
舞台に敷かれた幕が引き上げられて一面の桜となって、「贋作・桜の森の満開の下」(勘三郎さんと野田さんがいつかやろうと約束していた作品)をイメージしたのをはじめ、「研辰の討たれ」(曲もカヴァレリア・ルスティカーナが使われていた)、「夏祭浪花鑑」など、随所に勘三郎さんの姿や息づかいを感じる舞台でしたが、一番ガツンと来たのは「イイアイ」。


阿国とサルワカが母の最期を語り合う場面。
死を目の前にして、母音しか発することができなくなった母が放った「イイアイ」。
この言葉が私の耳にはそのまま勘三郎さんの声で聞こえたのです。
もしかしたら野田さんはその言葉を病床で聞いたのではないかと、涙がとまらなくなりました。
「イイアイ」が「死にたい」ではなく「生きたい」だと思い至り、さらに「行きたい」なのだと、本当に行きたかったのは「舞台」の上で、そこがここから一番遠い場所なのだと。
あまりの切なさに息が苦しくなりました。


二幕で、上演した芝居がさほど好評とは言えず落ち込むサルワカに、阿国が「私はこの話が好きだよ」と言う場面があって、「あぁ、この2人は野田さんと勘三郎さんなんだなぁ」とも思いました。
戯曲を書く作者とそれを演じる役者として。


これについては、帰りの新幹線の中で読んだパンフレットの志の輔さんと野田さんとの対談の中に、野田さんが初めて歌舞伎の脚本(「研辰の討たれ」)を書いた時のエピソードが紹介されています。
「最初の30ページぐらいを渡した時、彼が『面白いから続けて!』って言った時は正直ほっとしましたし、続きを書くたびに彼が励ましてくれたんで書き上げることができた。もっとも彼は台詞としてジェラシーのような外来語を歌舞伎座でしゃべっていいもんかどうかって、ドキドキしてたんですって」

これ読んだ時、サルワカと阿国のあの場面がシンクロして、「新幹線の中でスーパードライ飲みながらポロポロ涙をこぼすちょっとイタい人」になっていました。

パンフレットと言えば、冒頭の「十八代目中村勘三郎が残した足跡」という野田さんの寄稿が本当にすばらしい。
小汚いけれども美味しい中華料理屋での勘三郎さんの言動が本当に目に浮かぶようで、これ、泣き笑いしながら大阪に着くまでに8回読みました。


しなやかさと強靭さ、透明感と妖艶さを併せ持つ宮沢りえさん阿国。
純粋でひたむきな妻夫木聡さんサルワカ。
舞台も時空も自由に行き来する古田新太さん幽霊小説家(カッコいい一人殺陣も!)。
十役を楽しんでいるような扇雀さん。
鈴木杏さん、池谷のぶえさん、佐藤隆太さん、そして 野田秀樹さん。
役者さんは皆盤石です。


ラスト。
息絶えた阿国を抱きかかえたサルワカが言う「姉さん、幕だ、幕を引いてくれ。ここで幕が引かれさえすれば芝居になる。ニセモノの死になる。そしてまた明日も姉さんは舞台に上がる」
これはもう、野田さんが勘三郎さんに言っているとしか聞こえませんでした。
舞台のすべては虚。
野田さん、勘三郎が亡くなってしまったこと・・・というか、勘三郎さんが舞台の世界に戻って来られないこと、本当はまだ信じていないんじゃないかな(そしてそれはもしかしたら私自身も)。

「二代目、三代目・・・六代、七代、八代・・・少なくとも十八代目までは」
じゅうはち という数字。
十八代目中村勘三郎その人へのあふれ出るような思い。

このあたりはもう涙ナミダで、多分前の日に「猿若祭」を観ていなかったら、ちょっと抱えきれない思いで劇場を後にしたと思います。
でも、帰り道、前日に観たばかりの勘九郎さん猿若の明るい笑顔とキレのある踊り、小さいけれど頼もしい2人の桃太郎・・・そんな姿が目に心に浮かんできて、勘三郎さんの「肉体」はこの世から消えてしまったのかもしれないけれど、その「足跡」は、その思いは、きっと彼らの中に受け継がれて生き続けているのだと信じることができたのでした。
あのスッポンが、世界の一番遠い場所に繋がっているように。



ashiato3.jpg

ロビーに飾られていた舞台模型。
ちょうど花道の根元くらいの座席でした。



まだまだ咀嚼できていない部分もあるのでできることならもう1回観たかったです のごくらく地獄度 (total 1175 vs 1177 )


posted by スキップ at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック