2017年02月14日

誰も成長しない物語 「世界」


sekai.jpg大倉孝二さんが「赤堀雅秋さんのコクーン三部作」とツイートしていらして、「へ?あとの2作って?」と思って調べてみたら、

「殺風景」(2014年)
「大逆走」 (2015年)

でどちらとも観ていました。
そしてその2作品ともに大倉孝二さんもご出演なのね。

前2作のように殺人事件も飛び込み自殺も起こらず、市井の人々の日常を淡々と描いた物語。
本人たちは至って真剣そのものなのに、つい笑ってしまうユーモアを散りばめながら浮き彫りになっていく人間関係や日常の中の非日常。
取り立ててシニカルでも、かといって温かいという訳でもない目線。
赤堀ワールド全開。おもしろかったです。


シアターコクーン・オンレパートリー2017 「世界」
作・演出: 赤堀雅秋
美術: 土岐研一   照明: 杉本公亮
出演: 風間杜夫  梅沢昌代  大倉孝二  青木さやか  早乙女太一  
広瀬アリス  和田正人  福田転球  赤堀雅秋  鈴木砂羽

2017年2月5日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール G列下手



舞台上部に横幅いっぱいに陸橋。
そこから見下ろす「世界」は回り舞台になっていて、ある家のダイニングキッチン、スナック、若者一人暮らしのアパート、ラブホテルの4つがくるくる回転しては現れるオープニングがまず秀逸。
さっきスナックにいた人が次に回ってきたときにはアパートに座っていたり、彼らの生きる世界の狭さを印象づけます。
セットはいずれも細部までつくり込まれていて、狭いダイニングキッチンなんて、これでもか、というくらい生活感にあふれていました。

物語の中心はこのダイニングキッチンのある家で暮らす、あまり裕福そうには見えない家族。
足立義男(風間杜夫)は仕事を引退した後もわがままやへりくつを言い、妻(梅沢昌代)から離婚を切り出されています。
工場の跡を継いだ息子の健二(大倉孝二)は妻(青木さやか)がありながら、行きつけのスナックのママ(鈴木砂羽)と不倫中。
超マイペースな工場の新入り工員 辺見薫(早乙女太一)は近所のアパートに住む諸星順(和田正人)とひょんなことから友人となり、彼が入れあげるデリヘリ嬢あずみ(広瀬アリス)を紹介されますが、実は彼女は専門学校時代の同級生とわかり・・。


狭い「世界」の中で生きていて、「世界は繋がってるんだよ」を実感する物語。
諸星くんだけが足立一家と接点ないのね、と思っていたら、ラスト近くになって、義男が万引き騒ぎを起こすスーパーのアルバイト店員が諸星くんで(本業は売れない役者)、そのスーパーには健二の妻もパートで働いているといういきさつが紹介されて、本当によくできた脚本だなと思いました。


ありふれた日常の中に浮かび上がる親子の葛藤や男女の機微や夫婦生活の破綻。
一人ひとりが持つ哀しみや孤独、不安、焦燥。
噛み合わない会話。求めても応えられない心。
カーテンコールで赤堀さんが「こんな誰も成長しない話に・・」とおっしゃっていましたが、本当にそう。
カッコいいヒーローなんて誰も出てこなくて、みっともなくて愚かで、狭い世界の中で蠢いている。

でも、それでも、彼らはそれぞれに一所懸命生きている。
人間なんてきっとそんなものだし、この中の誰かに共感したり、自分自身を投影したりすることはなかったけれど、多分私たちも周りから見ればそんなふう映るのだろうと思います。


風間杜夫さん演じる足立義男は、家の中でも外でも威張り散らして、いつも何かに全力で文句言っているようなへんこつ親父。
その向こうに、仕事を引退し、人生の峠を越えてしまった寂寥感や目的が見えない未来への焦り、家族に受け容れられない孤独感が透けて見えます。
だから、それまで全く噛み合わない会話をかわしていた奥さんが最後に、「何だかいろいろとごめんね」と言った時、少しほっとしました。
そして、練りワサビ万引きしちゃうようなダメおやじだけど、風間さんが演じるとどこか色っぽい。
カラオケで美声も聴かせてくれました。

天気予報聞くたびに「あんな背広着たやつの予報なんか」とボロクソに言っていた義男が、陸橋の上で舞い降りてくる粉雪を見上げて「気象庁の背広の連中、やるじゃないか。雨じゃないけどな」と笑顔を見せるラストシーン、余韻があってとてもよかったです。

大倉孝二さん演じる息子の健二もどこかしら焦燥感を抱えている雰囲気。
弾けた部分の全くない大倉くん、新鮮でした。
不倫相手の宏子から「明日 温泉に行こう」とせがまれて、切羽詰まって待合せ場所と時間を決めて「俺のグロリア」で迎えに行くと言ってしまいますが、もちろん行けず(・・というか、最初から行く気はないように見えた)、来ないことを宏子もわかっていて、離れた陸橋の上から待ち合わせ場所を見続けるなんて、切なかったです。
その夜、何事もなかったようにスナックでカラオケ歌う2人、と一緒にバカ騒ぎする宏子の夫 坂崎昇(赤堀雅秋)がねぇ~。
昇さん、絶対2人の仲に気づいていると思います。

印象的だったのは早乙女太一くん演じる辺見薫。
何を聞かれても「テキトーっす」と答えるような今風の若者で、元ひきこもり。
マイペースというか自分勝手というか、反省することもないけれど悪びれもせず。
あずみと付き合うようになったことを2人揃って諸星に報告に行ったり、工場を無断欠勤した挙句、みんなが集まるスナックに「飲みに来ました」とシレッと現れたり。
無断欠勤を問い詰められると「心の中では何度も電話した」と返したのには呆れるを通り越して笑ってしまいました。

そんな太一くん辺見があずみを呼び出して、帰ろうとするあずみに「ハグはいくら?」と呼び止めて、1,000円払って街灯の下でハグするシーンが大好きでした。
赤堀さんの演出、冴え渡っています。



この日は千穐楽で、風間杜夫さんが「この人が脚本も書きました」と赤堀さんを紹介して、大人な2人のご挨拶の後、じゃあ、と早乙女太一くんをご指名。
「えぇ〜っ! オレぇ?!」という感じでそれまでのスカし顔から一転、両手で顔覆って笑う早乙女太一くんがとてつもなくカワイかったです。
太一くんのあんな表情見られただけでも、「風間さん、太一くんに挨拶振ってくれてありがとう」という感じ。

「皆さんどうもありがとうございました」と太一くん。
大倉孝二さんは「これからも赤堀をよろしくお願いします」
そして福田転球さん「大阪サイコー!」



赤堀さんコクーン三部作の中でこれが一番好き のごくらく度 (total 1704 vs 1706 )



posted by スキップ at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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