2016年10月14日

人間の根源に刷り込まれたもの 「DISGRACED -恥辱」


disgraced.jpg2013年にピュリツァー賞を受賞したパキスタン系米国人 アヤド・アフタルの戯曲の日本初演。
血縁関係にある2人を除いて、すべての登場人物が異なる民族出身という、まるで現代アメリカの縮図のような舞台。


「DISGRACED -恥辱」
作: アヤド・アフタル
翻訳: 小田島恒志  小田島則子
演出: 栗山民也
出演: 小日向文世  秋山菜津子  
安田顕  小島聖  平埜生成

2016年10月2日(日) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階C列下手



物語はすべてニューヨークの高級アパートメントの1室で展開します。
この部屋に暮らすのは、弁護士のアミールと妻で画家のエミリー。
絵に描いたようなセレブな暮らしぶりです。
2人や、訪れる人たちとの会話から、それぞれの出自が明らかになっていきます。
私が聴き取った範囲で以下のとおり。

アミール(小日向文世): 
企業専門の弁護士事務所に勤務する弁護士。
優秀で、自信もあり、近々パートナーに加われると思っている。
本当はパキスタン生まれながら、かつてインド領だったことか「出身はインド」としている。

エミリー(秋山菜津子):
アミールの妻で画家。
白人で、典型的なWASP・・と思われる。
自分の絵がホイットニー美術館に展示されることを目標にしている。
リベラルな考えの持ち主で、アミールと甥のエイブの仲立ちもしてやる。

エイブ(平埜生成):
アミールの甥でイスラム教徒。
もとはフセインという名前だったがサダム・フセインと重なるため改名している。
自分たちの指導者がテロリストの容疑で逮捕され、その弁護をアミールに頼みにくる。

アイザック(安田顕):
ユダヤ人でホイットニー美術館のキュレーター。
エミリーの才能を認めている。

ジョリー(小島聖):
アイザックの妻で黒人。
弁護士でアミールと同じ事務所に勤務している。


5人だけの濃密で息詰まるような会話の中で、人種差別や異教徒に対する偏見など、それぞれの考え方が次々露呈していきます。
9.11以降の、否、もっとずっと以前から、アメリカが抱える問題であり、それはすなわち、世界が直面する問題でもあるということでしょう。


後半の、2組のカップルのホームパーティでの会話が圧巻。
エミリーの手づくりのサラダから始まるディナーは当たり障りのない和やかな会話から、それぞれのアイデンティティが浮かび上がる緊迫した激しい言い合いへと突入していきます。

これを聴いていて感じたのは、人が子どもの頃から信じてきた主義や信条を変えることは、人間の意志の力では相当の覚悟をもってしても至難の技だということです。
順風に見えたアミールの人生の歯車が狂い始めたのは、エイブに頼まれてイスラム教指導者の審問に立ち会い、それが「弁護」したように新聞記事に採り上げられたことがきっかけですが、生まれた時から親に教えられ刷り込まれたイスラム教の考え方がアミールの根源にはあって、そこからはどうやっても逃れられなかったのではないでしょうか。

たとえば、初恋の少女がユダヤ人と知った時の彼の行動
たとえば、9.11をどう感じたかとアイザックに問われた時の彼の答え
たとえば、「アルカイダを作ったのは誰だ」「アメリカじゃないのか」という会話

パキスタン生まれということをあえて隠し、イスラムを否定することでエスタブリッシュメントとして成功したアミールですが、アメリカ人として表面を取り繕えば繕うほど、深部に根ざしたものは揺るがないように思えました。

あんなに心許しあったカップルに思えたエミリーとの関係も、「妻が従わなかったら殴れ」というイスラムの考え方?が伏線になった暴力で破綻してしまうのが何ともやり切れない思い。
物語の始まりで、エミリーが描く絵のモデルになっていた時とはまるで別人の狂気を爆発させたような小日向さん、怖かったです。
エミリーでなくても次に会った時、少し手を挙げる仕草しただけでも怯えるよね。

アミールが我を失うほど激昂してしまった原因の一つに、彼の勤務するロー・ファームのユダヤ人経営者たちが、パートナーにアミールではなくジョリーを選んだことがありますが、二枚舌とか信用ならないとかいうアミールの資質以前に、彼がイスラム教徒だという事実が理由であることは明らかで、ユダヤ vs イスラムの構図がここでも顕在化していることが印象的でした。


若い頃、海外旅行のトランジットの某空港で、たまたま居合わせたイスラエル人の男性と少しお話したことがあるのですが、「世界で一番優秀な人種は我々イスラエル人だ」と自信を持っておっしゃっていたことをなぜか思い出しました。

とても刺激的で、見応え、聴き応えのある会話劇でしたが、正直なところ、私自身はその本日を肌で感じられるほど理解できたとはいい難く、つくづく日本は島国で、自分はイスラムのこともユダヤにも、そしてそれらを呑み込むアメリカのことにも、いかに無知で、その根源の奥深さを理解するにはほど遠いことを思い知らされたのでした。
それと同時に、アメリカという国はいろいろな考えを持った多くの人種がひしめき様々な問題を孕んでいるけれど、こういう戯曲を受け容れる度量の大きさもまた持っている国なのだとも思いました。



それにしてもアミール 妻も職も失って、家も処分して、これからどうするんだろ の地獄度 (total 1643 vs 1646 )


posted by スキップ at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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