2016年06月27日

いつんなったら、あたしらん苦しみは終わるとやろ 「パーマ屋スミレ」


sumire.jpg新国立劇場「鄭義信三部作」のラストを飾る作品。
舞台は高度成長期でエネルギー政策も石炭から石油へと大転換期を迎える1960年台半ば。閉山へと向かう時代の波の真っ只中にいる炭鉱町。

1950年代の北九州を舞台にした「たとえば野に咲く花のように」
1970年前後の大阪が舞台の「焼肉ドラゴン」
時代的にはその間にあたる作品です。


新国立劇場 鄭義信 三部作 Vol.3
「パーマ屋スミレ」
脚本・演出: 鄭義信 
出演: 南果歩  千葉哲也  根岸李衣  久保酎吉  星野園美  森下能幸  
青山達三  村上淳  森田甘路  酒向芳  朴勝哲  長本批呂士

2016年6月18日(土) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階E列センター



物語は中年のサラリーマンとなった初美の長男 大吉(酒向芳)が回想する形で語られます。
東京オリンピックの翌年 1965年。熊本県の炭鉱町。
有明海を見下ろす「アリラン峠」と呼ばれる集落に住む在日コリアンが営む高山厚生理容所。
元美容師で、いつか自分の名前をもじって「パーマ屋スミレ」という店を持ちたいと夢見ながら炭鉱夫たちの頭を刈る次女の須美(南果歩)を中心に、長女の初美(根岸季衣)、三女の春美(星野園美)の三姉妹とその夫たちや家族が貧しくも活気に満ちた毎日を過ごしていました。ある日炭鉱で爆発事故が起こり、彼らの運命は一変します・・・。


三姉妹とその年老いた父、長女の息子という三世代が織りなす物語で、戦前は日本人だった在日コリアンは戦後になると朝鮮籍になり、祖国が南北に分断されてからは韓国籍になったり、春美のように日本人と結婚して日本籍となる・・・といった国籍問題や、「日本に連れて来られた」という発言にもある強制連行、炭鉱夫の過酷な労働環境、差別、組合闘争など様々な問題提起がなされていますが、心打たれるのはやはり、姉妹と夫たちの生き様。

爆発事故で仲間を助けようと我先に坑内に入って行った男たち。
そこに重なる「でも、あの頃は一酸化炭素中毒のおそろしさはまだそれほど知られてなかったとです」という大吉の語り。

中でも観ていて一番辛かったのは三女の春美夫婦。
物語の冒頭、結婚したばかりの春美と昌平(森下能幸)が祭りの夜、「吉永小百合のごたる~」「加山雄三のごたる~」と互いにほめ合って、周りに呆れられながらも幸せの絶頂にいるあたりから、不幸フラグ立ちまくりではありましたが。

重度の一酸化炭素中毒後遺症の苦しみから自分を失い、春美に暴力を振るう昌平。
そんな昌平を「子どもんごたるこの人を見捨てることなんちできん」と寄り添う春美。
須美やみんなの前に現れるごとに不幸が深まっている2人は、見ていて目をそむけたいほど。

ついに春美が引くリヤカーで運ばれるようになった昌平。
当時 地上の楽園と信じられていた「北」へひとり旅立つ英勲(村上淳)に、まわらない口で「さよなら」と絞り出し、いつも2人でやっていたように腕を合わせる仕草に涙。
あまりの痛み、苦しみから「殺してくれ」という昌平の求めに応じて昌平を手に掛ける春美。
「昌平しゃん、もうこれで苦しむこともなかね」と泣く姿が哀しすぎる。

須美の夫 成勲(千葉哲也)もまた一酸化炭素中毒の後遺症に苦しみます。
陽気でちょっといい加減で遊び人風な成勲だったから、自由に動かない体に感じるジレンマはことさら。
須美への屈折した思いをぶつけながら、妻の体を愛することができない成勲。
「俺はお前を抱くこともできん」という深い絶望と内包するやり場のない怒り。
このあたり、千葉さん 本当に上手い。

弟の英勲が須美に寄せる恋心を知りつつ、彼が「北」へ旅立つ日に狂おしいほどに殴り合う兄弟。
その激しさ、悲しさ。

そんな成勲を受け止めて、苦しみながらもすべて包み込む須美。
全身全霊で須美を生きているという印象の南果歩さん、すばらしかったです。


「いつんなったら、あたしらん苦しみは終わるとやろ」と須美が言ったように、
たくさんの人の命を奪い、その後の運命を変えてしまった炭鉱事故。
「一酸化炭素中毒のおそろしさ」という情報が行き渡らず被害が拡大する様、被害者への支援の厳しさなど、福島の原発事故を思い起こさずにはいられません。
彼らに降りかかってきたことは、50年前の遠い昔のことでも、在日コリアンという社会に限られたことでもなく、普遍的な人間の生き様を描いているのだと思いました。

炭鉱は閉山し、家族は離散してなお、アリラン峠にとどまる須美と成勲。
変わらずにある理容椅子にほとんど体の自由がきかなくなった成勲を座らせ、髭をあたる須美。
降り注ぐ雪。
「焼肉ドラゴン」のラストほど明るさはないものの、2人の穏やかな表情に救われる思いもするラストシーンでした。


幼少時代を福岡で過ごし、閉山はしていたものの「炭鉱」もそう遠くないところにあった私。
「三番方」なんていう言葉も結構身近に聞いていました。
それに加えて、ストーリーとは別のところで、忘れていた幼少時の記憶を呼び覚まされ、琴線に触れる部分があって、終盤、降りしきる雪を見ながら涙がとまらなかったのでした。


劇場に着いてロビーに入ると渡辺謙さんがいらして思わず二度見。
ケン・ワタナベが兵芸のロビーにフツーに立ってたら驚くよねー。
目立たないようにロビーの隅で関係者やお知り合いに挨拶されたり、目ざとく見つけて近づくファンとも気さくに言葉かわして快く握手したりと、カッコいい上に好感度大。
開演前には1階席の一番後ろの暗い壁際に立って客席と舞台をチェックするように鋭い目で見つめていらっしゃいました。


IMG_1969.jpg気づいていなかったのですが、この日は大楽だったらしく(兵庫公演 金土の2日間でこの日しか選択肢なかったのよ)、大大吉の酒向芳さんが幕間トーク?で鄭義信さんや南果歩さんのご友人ご親族たくさんいらしてるとおっしゃっていました。
南果歩さんのブログにその様子が。
鄭義信さんはカーテンコールのステージにも登場されました。

こちらの画像はロビーに登場したボタ山。



生きることはそれだけで切なく強い のごくらく地獄度 (total 1585 vs 1587 )


posted by スキップ at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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