2015年09月25日

血の赤 朝焼けのレッド 「RED」

red.jpgワシントンのナショナルギャラリーでマーク・ロスコの絵を見たのは10年以上前のことです。
正直なところ、どんな絵だったかも忘れてしまっていたのですが、劇場に入って、舞台上に置かれたダークトーンの赤でペイントされたキャンバスを見て、「あれ?こんな雰囲気の抽象画、前に見たことある・・」と記憶が蘇りました。

彼が自殺したということが心にひっかかって、帰国後ロスコのことを少し調べて、「シーグラム壁画」のこともあの時知ったのだった、と、開演を待つ座席でじんわり思い出したのでした。
(それくらい予習しておけよ、って話です)


シス・カンパニー公演 「RED」
作 : ジョン・ローガン
翻訳・演出 : 小川絵梨子
美術 : 松井るみ
出演: 小栗旬  田中哲司

2015年9月19日(土) 7:00pm 新国立劇場小劇場 1階B2列(3列目)センター



物語: 舞台は1958年のニューヨーク。
20世紀を代表する表現主義派の巨匠として名声を手中にしていたマーク・ロスコ(田中哲司)のアトリエに、1人の画家志望の若者(小栗旬)が助手として勤めることとなります。
ロスコがNYのシーグラムビルに入る高級レストランの壁画のオファーを受けながら、前受金を返金してまでもキャンセルするに至るまでの2年間を、この助手と2人きりのアトリエの中の会話だけで描いた物語。


休憩なしの1時間40分。
終始張り詰めた緊張感の中で展開される会話劇。見応えありました。

現代絵画・・というか芸術そのものの分野には全くもって浅学非才のため、ロスコが若者(ケン、という名前だということを後で知りましたが、私の記憶する限り劇中では一度も名前は出てこなかった)にふっかける抽象的だったり概念的だったりする芸術論には正直なところついて行けない部分も多々ありましたが、そこには「芸術」という枠を超越した、信念に基づいて生きる人間の普遍的な生き様が描かれているように感じられました。ロスコに命令されるままに絵の具を混ぜたり、キャンバスを張ったり、掃除をしたり、食事を買いに行ったり、といった作業をこなす若者。
そんな若者に、自身の芸術哲学や創作論を容赦なく浴びせかけるロスコ。
亡命ユダヤ人としての過去を封印したロスコ。
両親が強殺された現場を目撃したという心の闇を持つ若者。

互いに相手を理解できず(・・というか、ロスコは若者を理解しようとする気など毛頭なく)、反発し合いながらも少しずつ距離を縮めていく2人。

ただ従順にロスコに従うだけではなく、反発し、時には激しく言い合う若者との会話を通じて、傲慢な自信家に見えるロスコの、内なる芸術家としての苦悩や自負、自分が正当に評価されていないという怒り、現代美術への危機感や取り残されることへの焦りといったものがひしひしと伝わってきます。
一方、そんなロスコに振り回されながらも、本を読み、知識を吸収し、仲間と交わり、芸術家として、人間として成長していく若者。

2人が心を一つにして(いたように見えた)、大きなキャンバスをあっという間に「RED」に塗り上げる場面の迫力と高揚感。
まるで魂をぶつけ合うように、一心不乱にキャンバスに赤い絵の具を塗る2人。
キャンバスの赤い部分が増えるにつれ、激しくなる2人の息づかいが静まり返った客席に響き、まさにライブならではのシビれる演出でした。

物語の終盤で、若者がアトリエに入るとロスコが血だらけで床に倒れている場面。
驚いてロスコに駆け寄った若者が「絵の具か」とつぶやくと、客席からも「なーんだ」というような安堵感とともに笑いも漏れました。
が、ここで感じた小さな違和感。

若者には両親が強殺された現場を目撃したという過去があって、そのことは若者の口から何度か語られ、赤い絵の具を「血に見える」と暗い目をして話していました。
そんな彼ならば、あのロスコを見て、血まみれの両親の姿が心に蘇ることはなかったかしら。
あんなに冷静に「絵の具か」って言えたかしら。
笑いに流してしまった客席にも責任はあるかもしれませんが、ここは小栗旬くんの演技プランもさることながら、小川さんの演出方針を一度お伺いしてみたいところです。


最後になって、ロスコが壁画に込めた本当の意味を理解する若者。
「自分の絵はあのレストランには飾れない」と依頼主に電話で断るロスコを見て、今度こそわかり合えたと思った矢先、解雇を言い渡されます。
その意図が理解できず、ロスコに詰め寄る若者に、明るい日の光が漏れる外を指差し、「お前の生きる場所はそこにあるからだ」と静かに告げるロスコ。

芸術家としても人生の上でも夕暮れを迎えようとしているロスコと、自身が発言したように「朝焼けのレッド」へ、明日の希望へと歩を進めようとする若者。
その対比が何とも切ない幕切れでした。


天才の光と陰、傲慢と苦悩、強さと脆さ、孤高と世俗を体現してみせた田中哲司さん。
繊細さと若さゆえの傍若無人さを併せ持つ若者を緩急自在の声と表情で演じた小栗旬くん。
この2人がつくり出す濃密な世界、堪能させていただきました。



世界に3ヵ所しかないシーグラム壁画が見られる美術館が日本に・・DIC川村記念美術館 いつか行ってみたい のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1440 わーい(嬉しい顔) vs 1442 ふらふら)
posted by スキップ at 23:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そうそう、私もDIC川村記念美術館への行き方を調べちゃいました。東京駅からの直行バスだな!(しかしいつ行くんでしょ)
小栗旬くん、いつも私には歯応えある(ありすぎる)舞台に出てるイメージなんですが、今回は久しぶりにスッキリ、ストレート! おトクな役だったのかも。
あーー、これはもう一度見たかったです。目に見える色彩と、イメージする色彩と、なんだか不思議な音の手ざわりみたいなもの。ぎゅっと濃縮されてた感じ。
(ところで認証コードは来月まで同じかな)
Posted by きびだんご at 2015年09月27日 02:21
♪きびだんごさま

直行バスがあるのですね!
いいなぁ、東京からだと比較的行きやすそうです。
ほんとに私なんていつ行けることやら・・・。

小栗旬くんの役、よかったですね。
前作の「カッコーの巣の上で」も、あれ?一段上がったかな?
と感じたのですが、こんな等身大に近い若者こそ本領発揮でしょうか。
私も、できればシーグラム壁画を見て、その後でこの舞台を
もう一度観てみたいです。

(認証コードは、一応10/17までのつもりです(^^ゞ)
Posted by スキップ at 2015年09月27日 10:53
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