2015年08月25日

1000年先のあなたへ  「トロイラスとクレシダ」

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頭の中を「エリザベート」のナンバーがエンドレスでリピートしている状態(ちなみに今は『私が踊る時』)ですが、まずは先週観た舞台の感想を。


シェイクスピアの作品の中では世界的に上演機会が少なく、悲劇、喜劇、歴史劇いずれにも分類困難な「問題劇」とされている作品なのだとか。
紀元前のトロイ戦争を背景に、男女の愛と裏切りと、国同士の戦いという二本の柱を軸に描く物語。


世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター共同制作
「トロイラスとクレシダ」
作: ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 小田島雄志 
演出: 鵜山仁
出演: 浦井健治  ソニン  岡本健一  渡辺徹  今井朋彦  横田栄司  松岡依都美  荘田由紀  吉野実紗  小林勝也  吉田栄作  江守徹 ほか

2015年8月15日(土) 5:30pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階G列センター



画像は3ポーズのフライヤー。
長期間の公演ならともかく、わずか2日間の公演に世田谷パブリックシアターと同じ3種類のフライヤーとポスターつくって大量配布、ってリキ入っています兵芸。
さすが共同制作に名を連ねているだけのことはありますワ。


ギリシャ神話のトロイ戦争の時代。
トロイの王子 トロイラス(浦井健治)は神官の娘 クレシダ(ソニン)に恋し、クレシダの叔父パンダロス(渡辺徹)の仲介で愛を確かめ合います。クレシダはトロイラスに手袋を、トロイラスはクレシダに自分の服の袖を渡して永遠の愛を誓い合ったのもつかの間、クレシダは捕虜交換でギリシャへ送られます。やがて、軍使としてギリシャ陣営を訪れたトロイラスが見たものは、敵軍のデォオメデス(岡本健一)と愛を語るクレシダの姿でした・・・。


2012年に彩の国シェイクスピア・シリーズ第26弾として蜷川幸雄さん演出で観た作品。
あの時も、若い二人の恋の向こうに、繰り返される不毛な戦争の虚しさが描かれていると感じましたが、鵜山仁さんの演出はそれをより色濃くした印象。
「トロイラスとクレシダ」の物語というようり、トロイ軍、ギリシア軍それぞれの人々の思惑と戦争の大義の虚無を描いた群像劇といった趣きです。
戦争に翻弄され、運命を狂わされるのは若い恋人たちばかりではなく・・・。スパルタ王妃ヘレン(松岡依都美)をトロイ王の次男王子パリス(浅野雅博)が奪ったことに端を発するトロイ戦争。
この二人がいかにもバカップルぽくて、「たかがこんな女のために国同士が・・」とも思いつつ、たとえば女を「領土」「宗教」「油田」・・と置き換えてみると、現代の「戦争の大義」と信じられているものと何ら変わりがないことに暗澹たる気持ちにもなります。
そこにこの物語の普遍性を見る思い。

その中で描かれる、ヘクター(吉田栄作)とアキリーズ(横田栄司)の対比。
騎士道を守り、倒れた相手にとどめを刺すことを是としない無骨なヘクターが、甲冑を脱ぎ無防備な中、騎士道なんかくそくらえ的なアキリーズに残忍に殺されるあたり、「戦争には大義なんかない」ということを際立たせています。
まぁ、このアキリーズの所業も、盟友(というかホモセクシャルな恋人かな?)パトロクラス(高橋克明)を殺された怒りに燃えてということなので、「報復」という大義と言えなくもありませんが。

蜷川さん版アキレウス(=アキリーズ)はかなりカリカチュアライズして描かれていた印象でしたが、今回のアキリーズはそれにも増して凄かったな。
その言動といい、ドレッドヘアといい、素肌に毛皮といい・・・。
横田さん、蜷川版では思慮深く勇敢なヘクトル(ヘクター)。
真逆の役ですがさすがの振り幅でした。

このアキリーズを筆頭に、それを意図したのかどうか、キャスト的には個性際立つギリシャ軍の圧勝という印象。
クレシダの心変わりの相手となるダイアミディーズ・岡本健一さんの色っぽさ。
前半はあまり台詞も活躍の場もないのですが、軍議の席で端っこにいるだけで目が行ってしまう佇まい。
いかにも頭が切れるクセモノな匂いぷんぷんのユリシーズ・今井朋彦さん。
指揮官らしいオーラ全快のアガメムノン・鍛冶直人さん・・・などナド。


タイトルロールの二人。
クレシダがギリシャ軍に連れて来られた時、男たちに次々キスを求められたり抱きつかれたり、男たちの欲望の対象として慰み者にされかれないような演出が加えられていて(私の記憶では蜷川版にはなかったと思います)、クレシダが自分を守ってくれそうなダイアミディーズに心を寄せることも無理からぬこと、という説得性を持たせていました。
クレシダは心ではトロイラスを思っていても、生きていく術を選んだのだ、と。
ソニンさんは、表情豊かで可愛いクレシダでしたが、どちらかといえばクレシダの「強さ」と「打算」が前面に出た印象。台詞がいつも強いワントーンなのが少し気になりました。

敵方に若くて美しい女一人置かれたら男たちの欲望の対象になりそうなことくらい想像できないで、クレシダの不実を怒ったり嘆いたり絶望したりしているトロイラスはやはりまだまだ若い青二才です(笑)。
浦井健治くんはその若造っぷりがとてもよかったです。
少し体を絞ったのかな。ほっそりした体躯が若者をよく表していて、恋に輝く瞳も絶望に沈む表情も魅力的でした。
相変わらずちょっと姿勢が悪くて立つと首だけ前に出ている時がありますが、そんな雰囲気もこの役には合っていました。

この二人の取り持ち役となるパンダラスの渡辺徹さんも印象的でした。
すっと軽妙な道化でいて、寂寥感漂う最期。
「あ、やっぱりちゃんと文学座の俳優なんだ」と思っちゃった(笑)。

文学座といえば、ヘクターの妻・アンドロマキを演じた荘田由紀さんは鳳蘭さんのお嬢さんですが、文学座にいらしたとは存じ上げませんでした。


ラスト。
ヘクターの戦死を知ったトロイラスは、悲しみの中で進軍を叫びます。
「鵜山さんには『未来を見て、1000年先のお客様に向かって伝えるイメージで』と言われました」と浦井くん。
これ、昨年観た三谷幸喜さんの「紫式部ダイアリー」で、清少納言(斉藤由貴)が紫式部(長澤まさみ)に、「あなたは1000年後の読者に向かって書きなさい」と言った台詞を思い出しました。
偉大な作家の普遍性というのはそのあたりにあるのかもしれません。

洋の東西を問わずいつの時代も、流れていく時間と歴史の中で、人間はその断片に過ぎないけれど、変わらず繰り返す人間の愚行への、それは警鐘となっているでしょうか。



位置情報この日はアフタートークがありました。
世田谷パブリックシアターの制作の女性の進行で、まず最初に鵜山仁さんが登場して少し話した後、下手から浦井健治・今井朋彦・渡辺徹・ソニン・横田栄司の順に着席。
40分くらいだったでしょうか。
鵜山さんのお話を直接伺うのは初めてで、とても興味深く聞き応えありました。

「今年は戦後70年で、その年にこの物語をやるのは意義がある。まして今日は8月15日。」とおっしゃっていて、上演中、「繰り返される戦争の不毛を描いている印象が色濃い」と私が受けた感触は、やはりそう意図したものだったのだと改めて思いました。

訳者の小田島雄志さんは「予想以上のものができた。鵜山すごい」と絶賛だったとか。
東京で二度も観劇されたそうです。

7月15日に開幕したこの公演も残すところあと3回。
「今日もカーテンコール中に岡本さんに、あそこはこうやった方がいいよ、と言われました」
と浦井くん。ずっと進化しつづけるカンパニーなのね。

浦井くんは鵜山さんとは4回目で最初の頃とは演出の仕方が変わってきたと思っているそう。
「『ヘンリー六世』の頃は僕には言葉が通じないと思っていて、最近 僕という動物に慣れた感じ」と大演出家に向かって安定の浦井語録わーい(嬉しい顔)

横田栄司さんは文学座ですが鵜山さんとは16年ぶりなのだとか。
蜷川さん版にヘクター役で出演していることもあって、
「実際どうなの?蜷川さんと鵜山さんの演出?」と渡辺徹さんのツッコミに
「やっぱり・・・あのぅ・・・」と歯切れ悪く口ごもったところで「ハイッ!」と徹さんが強制終了(笑)。

アフタートーク全般を通じて渡辺徹さんの軽妙なトーク、仕切りの上手さが際立っていました。
その徹さんが「皆さんこれだけは帰ったらご家族ご友人に言ってください」とおっしゃったので、帰りにtwitterでもつぶやいたのですがここでもう一度。

「渡辺徹、思ったより脚細かったよ」
(それ見せるためにわざわざ半パンで登場w)


「ライブは人間が変わっていく上で長いスパンで力になる」 by 鵜山仁 のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1423 わーい(嬉しい顔) vs 1424 ふらふら)
posted by スキップ at 23:07| Comment(6) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
エントリーの題名の「1000年先のあなたへ」、素敵ですね。

このお芝居は見応えがあり面白かったのですが、私には所々よく分からなかった部分がありまして。それが、スキップさんのご感想を拝読して「あぁ、あれはそういう意味だったのか」とストンと腑に落ちました。

鵜山さんの「1000年先のお客さんに向かって伝えるイメージで」「戦後70年の年にこの物語をやるのは意義がある」との大切な言葉も教えていただけて!

素敵なエントリーをありがとうございます!
Posted by ルート at 2015年08月26日 17:24
♪ルートさま

コメントありがとうございます。

「1000年先」って果てしなく遠い未来のように思えますが、
この物語のトロイ戦争の頃から今の時代までの時間より短い
のですよね。
今はまだ、世界中からなくなるということのない戦争が、
1000年先にはなくなっているようにとの思いも込められて
いるのでしょうか。鵜山仁さんのお言葉はとても胸に響きました。

私もまだまだ理解しきれていない部分もあるのですが、
やはり蜷川さん演出版との違いもいろいろ興味深かったです。
Posted by スキップ at 2015年08月27日 00:10
認証コード「aterui」!!
スキップさんらしくて、チャーミングで、ニコニコしてしまいました♪
Posted by ルート at 2015年08月27日 17:43
♪ルートさま

うふふ(^^ゞ

認証コードは不定期で変更しているのですが、
10月に阿弖流為様が大阪に降臨されるまでは
このままでいようかと(笑)。
Posted by スキップ at 2015年08月28日 00:03
スキップさん、こんばんは!

蜷川さんの舞台がとても印象的でしたが、鵜山さん演出は全く違うテイストでやはり印象的でしたね。
ギリシャ軍の個性には、私も圧倒されました。
というか、横田さんのアキリーズには目を疑いました(^^;)
アフタートークの浦井語録もありがとうございますv
Posted by 恭穂 at 2015年08月28日 20:31
♪恭穂さま

本当に、役者さんはもちろんですが、演出家が変わるとこんなにも
テイストの違った作品になるのですね。
だからやっぱり演劇っておもしろい。

横田さんのアキリーズの弾けっぷり、凄まじかったですね。
役を離れた浦井君は相変わらずキュートでした(笑)。
Posted by スキップ at 2015年08月29日 20:55
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