2015年03月25日

などてか松の つれなかるらん 三月大歌舞伎 「菅原伝授手習鑑」 夜の部

IMG_4991.jpg祝日でしたので歌舞伎座には国旗が掲げられていました。

夜の部は松王丸・梅王丸・桜丸の三つ子兄弟が、染五郎・愛之助・菊之助という花形歌舞伎のような座組。
初春大歌舞伎の「金閣寺」もそうでしたが、これからはこの人たちが中心となって牽引していっていただかないと。
「歌舞伎座の大歌舞伎」としては重厚感そのほかまだ足りない部分も確かにあるのでしょうが、歌舞伎三大名作「菅原伝授手習鑑」という演目に対する花形の皆さんの敬意と気概が伝わってくる熱演で、観ていて頼もしくもうれしくも感じたのでした。


松竹創業120周年 歌舞伎座 三月大歌舞伎
通し狂言 「菅原伝授手習鑑」 夜の部
四幕目 車引
五幕目 賀の祝
六幕目 寺子屋  寺入りよりいろは送りまで
 
出演: 市川染五郎  尾上菊之助  片岡愛之助  尾上松緑  中村梅枝  中村萬太郎  中村壱太郎  坂東彌十郎  片岡孝太郎  市川左團次 ほか

2015年3月21日(土) 4:30pm  歌舞伎座 1階5列下手



幕開きは「車引」
染五郎さん松王 愛之助さん梅王 菊之助さん桜丸。
年齢的にもバランスがよく、 隈取にも、松・梅・桜柄の衣装にも、それぞれの個性際立っていて決まる見得の並びもとても綺麗で眼福。
中でも、桜丸の菊之助さんが、クールビューティといった趣きで凛としていて、所作も美しく、すごく声を張っている風でもないのによく通る声で印象的でした。


お父さんの白太夫(左團次)七十歳のお祝いに集まった三つ子とその妻たちを描く「賀の祝」
前半と後半でガラリと雰囲気が変わります。松王、梅王のお嫁さんたち 千代(孝太郎)、春(新悟)がいそいそと支度をする様子も可愛いし、
松王と梅王の米俵まで投げ合う「小学生ですか?」な兄弟ゲンカも楽しいです。

帰ってきた白太夫に、「管丞相を追って九州に行きたい」と言う梅王。
「自分は管丞相の敵 藤原時平に仕える身だから勘当してほしい」と松王。
白太夫が激怒して二人を追い払ったところで桜丸登場。
ここから一気に悲劇の展開。

「加茂堤」で自分がしたことが管丞相を窮地に追い込んでしまった責任を感じて死んでお詫びすると言う桜丸。
驚き嘆く妻の八重(梅枝)。
折れた桜の枝を見た時から桜丸の運命を悟り、その覚悟を静かに受け止める白太夫。

桜丸切腹の場面。
桜丸が刀を腹に突き立てようとするたびに、八重がその手を押さえて「やめて」と懇願します。
そのたびに静かに首を振り、死ぬより道はないことを目と表情で訴える桜丸。
八重が桜丸を心から愛しく思い、桜丸も八重を大切にしていることがひしひしと感じられて切ない。
菊之助さんの桜丸ももちろんいいのだけど、八重を演じた梅枝くんが本当に上手い。
歌舞伎の型、台詞なのにもかかわらず、動きも声もとても自然。ほんとに女優さんが演じているのかと錯覚してしまいそうでした。それでいて義太夫にもちゃんと乗っていて。
中村梅枝くん 27歳。
美しさも力量も兼ね備えた女方としてこの世代の先陣を切って走る役者さんだと再認識しました。


そして「寺子屋」

昼の部「筆法伝授」で染五郎さんの源蔵がとても良かったので、「寺子屋」でもこのまま源蔵やればいいのにと思っていましたが、松王丸もすばらしかったです。
首実検でも、正体を現した後も、全編を通して松王丸が忠義のためとはいえ、わが子小太郎を身代わりに差し出す苦悩や、弟 桜丸を失った悲しさがひしと伝わってきてナミダ。
「持つべきものは子でござる」も「笑いましたか」も、千代に言う「泣くな」も、声色や表情の一つひとつに込められた思いが痛いほど感じられる松王でした。
線の太さ、押し出しの強さは発展途上かもしれませんが、華も実もある立派な松王でした。

今回「寺入り」の場がありました。
寺子屋に小太郎を預けるということは、そのわが子を死に追いやることな訳で、あの時の千代さんの思いはいかばかりかと。
小太郎が自分も母様と一緒に行く、とついて来ようとした時に、「この子は何を言うやら」と笑顔でいなした裏にはどれほどの悲しみがあったかと。
この場面があったから、後の「お役に立ちましたか」が一層切ない。
孝太郎さん、よかったです。


松緑さんの源蔵は、出て来た時から悲壮感を目一杯背負って眼光鋭く今にも誰かを殺しそうな勢い(笑)。
でもそこに、菅丞相を、その子菅秀才を何としても守るという重い責務を背負った者の辛さ、必死さが滲み出ているようでした。
役者さんは変わっていても「筆法伝授」を観た後だから繋がるも思いもあって、このあたりが通し狂言の醍醐味でもあるなと思いました。


敬愛する管丞相のため、忠義のためとはいえ、
自らの命を絶った桜丸と残された八重。
愛しいわが子を犠牲にした松王丸と千代。
他人の子と知りつつ小太郎を殺めざるを得なかった源蔵と戸浪。
その理不尽さで「賀の祝」も「寺子屋」も苦手な物語ではありますが、
仁左衛門さんの管丞相がそんな思いを凌駕するような存在だったこと、
花形の皆さんの熱演でより身近なものに感じられたこと、
通し狂言でひとつの物語として観られたことで、
全体の悲劇感はもとより、生き残ったものたちの慟哭もより深く心に染み入りました。

そして、管丞相が詠んだとされる歌
「梅は飛び 桜は枯るる 世の中に などてか松の つれなかるらん」
の中に示された三つ子の運命に、改めて思いを馳せたのでした。



にしてこの物語はやはり理不尽 のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1344 わーい(嬉しい顔) vs 1346 ふらふら)
posted by スキップ at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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