
ありがたいことに毎年ご招待いただいている顔見世。
年末年始はさんですっかり記憶も薄れておりますが

ちょうど南座に着いたころに雨が降り始めちゃって、まねきの写真も撮りませんでしたので、画像はネットから拝借したまねき上げ(11/25)の写真です。
當る未歳 吉例顔見世興行
新檜舞台開き 東西合同大歌舞伎 昼の部
2014年12月20日(土) 10:30am 南座 2階2列下手

番附には旧檜舞台から誂えられたしおりがついていました。
一、玩辞楼十二曲の内 藤十郎の恋
出演: 中村扇雀 片岡亀蔵 中村亀鶴 中村壱太郎 上村吉弥 片岡孝太郎 ほか
初見でした。
初代 坂田藤十郎をモデルとした菊池寛の同名小説が下敷きになっているらしい。
近松門左衛門の新作で不義密通する役づくりに悩む藤十郎が馴染みの茶屋の女将・お梶に偽りの恋を仕掛けて相手がその気になったところで逃げ、芝居は成功するものの、藤十郎が本気ではなかったことを知ったお梶は公演中の芝居小屋まで出向いて自害する
・・・という、何ともあと味の悪いストーリー。
女方で拝見することの多い扇雀さんですが、自分は選ばれし役者・坂田藤十郎なのだから、その芸のためなら一人の女の心を踏みにじることなんか何でもないという役者の業というか、傲慢さ、冷徹さがよく出ていて、一遍でキライになりました(笑)。
お梶と話してその気にさせながら、まるで獲物を見るようにじっと観察している視線の血の通っていないような不気味さ、ほんと感じ悪かったなぁ。お梶の孝太郎さんは、しっかり者の茶屋の女将が思いがけず人気役者に思いを告げられ、惑わされてその思いに応じようとする短時間の心の変化を丁寧に描いていらっしゃいました。
「はい」という代わりに行灯の灯をフッと吹き消す決意を胸に秘めたような硬い表情が印象的でした。
あんなことがなければ働き者のよくできた女将として普通に幸せな一生を過ごせたはずなのに。
芝居小屋の楽屋に現れ、本心を隠して何気ない風を装って話す姿に隠し切れない影。
藤十郎の偽りの恋の相手を詮索する役者仲間たちに、「(そんな女は)三国一の果報者だ」と笑顔を見せて言い放つ言葉は、それが多分本心なだけに一層切なく哀しかったです。
ニ、恋飛脚大和往来 新口村
出演: 中村梅玉 片岡秀太郎 片岡我當 ほか
「恋飛脚大和往来」から「新口村」だけを見取り上演。
秀太郎さんの梅川に我當さんの孫右衛門はこれまでに何度も観ていますが、忠兵衛が梅玉さんというのが私には珍しくて、いかにも顔見世という座組みでしょうか。
幕開き。
雪景色の中、ひとつのござにくるまって立つ梅川と忠兵衛。
そのござを開き、比翼の紋の黒いお揃いの着物を着た二人の艶やかさ。
秀太郎さんの梅川は言わずと知れた絶品。
儚さの中に情があふれ、隠し切れない遊女としての色気も滲み出ています。
いかにも上方和事といった風情のやわらかな物腰や浪花ことば、着物の裾さばきも見惚れるくらい美しいです。
我當さんの慈愛と悲しみを併せ持った孫右衛門がまたいつもながらすばらしい。
梅川に促されて、小屋から顔をのぞかせる忠兵衛を見やった背中が泣いているように見えました。
今回、少しお元気がないようにお見受けしたのですが、12/25から体調不良のため休演なさったそうです。
一月松竹座も引き続いて休演ということで、心配です。
我當さんの代役は何と仁左衛門さん。
不謹慎は承知ながら、仁左衛門さんの孫右衛門なんて貴重な機会、観てみたかったな。
三、新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎
出演: 松本幸四郎 中村橋之助 市川高麗蔵 大谷友右衛門 中村魁春 ほか
いかにも上方歌舞伎な「新口村」からガラリと変わって江戸前のお芝居。
こんなところも顔見世の醍醐味です。
幸四郎さんの宗五郎は染五郎さん復帰舞台となった2013年の日生劇場以来。
あの時は通し狂言で、お蔦が死ぬことになったいきさつとかよくわかっておもしろかったな。
台詞まわし含めて、何かと独特と言われる幸四郎さんの宗五郎ですが、私は結構好きです。
幸四郎さんは市井に生きる魚屋さんというのは、持ち味としては違っているのかもしれませんが。
ポーカーフェイスの中の愛嬌とでも言うのかしら。
だんだん酔っ払ってきて、急に大声出したりして、思わず笑っちゃいました。
それよりも意外だったのは、おはまの魁春さん。
魁春さんって私の中ではお姫様とか武家の奥方というイメージだったので、こんな下町のおかみさんもされんだぁと思いました。
それがまた結構ハマっていて(おはまがハマるっておやじギャグかい!)、楽しいおはまさんだったりして。
この面子で主計之助は誰がやるんだろう?と思っていたら、橋之助さん出てきました(笑)。
恰幅も押し出しもよい若殿様っぷり。
もうすでに反省した後だということを差し引いても、ちょっと爽やかすぎかな?
何の罪もない宗五郎の妹を手討ちにしておいて、あっさり謝って済ます(そして宗五郎も恐縮してそれを許す)あたりが、この時代の常とはいえ、やはり心情的には納得し難いところがある物語です。
四、十八世中村勘三郎を偲んで
仮名手本忠臣蔵 七段目 祗園一力茶屋の場
出演: 片岡仁左衛門 中村七之助 中村壱太郎 中村亀蔵 中村勘九郎
2年前、この顔見世興行公演中に亡くなった「十八世中村勘三郎を偲んで」と銘打たれた演目。
全段好きな「仮名手本忠臣蔵」。
大好きな仁左衛門さんの由良之助。
そこに七之助くんのお軽。
と揃って、とても楽しみにしていた演目です。
七段目の由良之助は、現役では仁左衛門さんと吉右衛門さんが双璧だと思っています。
その片壁、仁左衛門さんの由良之助。
期待に違わぬすばらしさでした。
登場の場の目隠しされての酔態。
華やかで匂い立つような色気がこぼれます。
迎えに来た富森助右衛門たちを相手に決して肚を明かさぬ覚悟。
平右衛門相手に寝たふりする時の茶目っ気。
力弥の登場でガラリと変わる表情。
お軽を相手にする時の大人の男としての度量。
九太夫に対して爆発させる怒りの凄み。
どの場面、どの表情も実に魅力的な由良之助で、いつまでも観ていたいくらいでした。
七之助くんのお軽は見た目の美しさは言うことなし。
二階の窓から登場の場なんて錦絵から抜け出たようでした。
基本的に玉三郎写しのようで、台詞の言い回しや所作がとてもよく似ていました。
貸切だったので何かと反応が新鮮だったのですが、平右衛門から勘平の死を知らされた七之助くんお軽が海老反りのようにのけぞりながらスローモーションのようにふわりと倒れるところ、私の周りではどよめきが起こっていました。
父の死を知った時と違って声も出ない、という反応がより濃い悲しみを物語っていて一層切なかったです。
勘九郎さんの平右衛門はキビキビと動いて活気があり、誠実な忠臣でいかにも熱い男という雰囲気。
口跡よく声もよく出ていて台詞がとても聴き取りやすかったです。
あのバーン飛び上がって座るところでもどよめきが。
お軽との兄妹の場面はさすがに息もぴったりで楽しく拝見しましたが、そこに仁左衛門さんや他の人が入ると、全体のバランスとして二人の場面だけが少し抜き出た印象だったのは、観る私の方が「勘七」と意識し過ぎて観たせいでしょうか。
勘九郎さんはいずれ由良之助を演じる役者。
今回の共演で仁左衛門さんからたくさんのことを学び取って次に繋げることと楽しみにしています。
亀蔵さんの九太夫は、この人の持ち味かもしれませんが、やや道化がかった造形で、敵役としては憎み切れずいささか軽い感じ。
一場面だけ登場の壱太郎くんの力弥はさすがに品もお行儀もよくて目を惹きました。

今年はこんな感じ。
とてもおいしくいただきました。
すっぽんの板から取った数量限定の木札は完売でした のごくらく地獄度



