2013年11月25日

Mi estas infano  「イーハトーボの劇列車」

iha.jpgプロローグ。
舞台に並んだ出演者が歌舞伎の割台詞のように唱和する言葉が、「注文の多い料理店」の序文をモチーフにしたものだと気づく。
わたしたちは、コカ・コーラの自動販売機がなくても、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます・・・
その美しい言葉たちに聴き惚れる。

エピローグ。
冒頭と同じくように並んだ人たちが、やはり口々に語る「こわくない」という言葉。群青の空に煌めく星空。
知らず知らずに涙があふれた。

そして、列車に乗り込んだ人たちを見送った車掌さんが、彼らの「思い残し切符」を万感の思いを込めたように空(くう)へと撒く。その一枚がハラリと私の足元に舞い降りてきました。

こまつ座 第101回公演 「イーハトーボの劇列車」
作: 井上ひさし
演出: 鵜山仁
出演: 井上芳雄  辻萬長  木野花  大和田美帆  石橋徹郎  松永玲子  小椋毅  
土屋良太  田村勝彦  大久保祥太郎  鹿野真央  みのすけ

2013年11月24日(日) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階1列センター


1980年に初演された井上ひさしさんの代表作ともいえる作品。
22歳(大正7年/1918)から35歳までの宮沢賢治の4回の上京を、花巻から上野へ向かう列車の中と東京での光景を切り取って見せる構成。
ですが、演じるのは現世からあちらの世界へ行く列車を待つ人々(農民)という、劇中劇という設定です。

病に倒れた妹・とし子の看病のために、日蓮大聖人の御書が背中にばっさり落ちて来てお告げを感じたため、エスペラント語やセロを学ぶため、そして最後は40キロのトランクに詰めた品物を売り歩くために、上京しては挫折を繰り返す賢治。
裕福な家に生まれ、やさしく繊細な心を持ち、農民を貧しさから救いたいと願いながら、何をやってもうまくいかす、父の経済的援助なしには生きられない矛盾を抱えた賢治。

宮沢賢治の半生の、厳しい現実を描きながら、列車に同乗する人たちは、西根山の山男やなめとこ山の熊撃ちという宮沢作品にモチーフを得た人物だったり(・・というのは後でパンフレットを読んで知ったのですが)、ダダスコダッダやドデデデドデスコ、はたまたガタンコガタンコシュウフツフツといった擬音語もふんだんに出てきて、ラストは「銀河鉄道の夜」を思わせたり、どこかファンタジーな雰囲気です。理想主義の賢治の考えや行動は、究極の対象とも見えるリアリストの福地第一郎や、厳格な父や、赤狩りの刑事にことごとく論破されてしまうのですが、その中にもどこかふわりとユーモアを漂わせているのが井上さんならではの筆致。
病院での第一郎とのやり取りで、ベジタリアンの賢治がとし子に「ベコの気持ちになってみろ」と牛肉を食べさせようとするくだりなんて、切ないけれどおかしかったな。

井上芳雄くんは、透明感があって、挫折を繰り返しながらも理想を追い求めることをやめず、心を研ぎ澄ましていく賢治にとてもよくハマっていました。
群衆の中、後ろの方で表情が見えない中でもそれとそぐにわかる口跡のよさ、九州男児なのに花巻弁もとても滑らか。きっと音感がいいからなんだろうな。(今度関西弁も聴いてみたい。)
朗々と歌い上げることもできるでしょうにそれをせず、お芝居の中に溶け込む歌唱。
自分の信じたことは決して曲げずに議論する熱さも、思い通りにならない悲しみも怒りも絶望も、表情豊かに描写していました。
エスペラント語を教えているつもりだった伊藤儀一郎に、すべては父の庇護の下だったことを思い知され、Kiu vi estas?(君は何者?)と問われて、少し間を置いて、Mi estas infano. (ミ・エスタス・インファーノ 僕はこども)と絞り出すように答えた時の、打ちのめされたような悲しみと絶望に満ちた表情が忘れられません。

その賢治を「大人」の理論で論破する父と刑事の二役を演じた辻萬長さんをはじめ、周りの役者さんたちの盤石。
舞台の中央で一段高くなった楕円形の回り舞台も、どこか現実世界ではないような浮遊感があって印象的(美術: 島次郎)。荻野清子さんが奏でるピアノ生演奏もいつもながらステキでした。

そして、思い残し切符。
この物語が、切ないのに後味が温かいのは、「思い残し」という言葉から受ける印象とは裏腹に、死に行く者たちが、この世への怨みつらみや未練を遺すのではなく、その切符に込められた思いが、自分たちの無念を戒めつつ、生きている者、後に続く者へのエールとなっているからだと思います。
厳しい暮らしを強いられていたであろう東北の貧しい農民の生き様や、心残しながらこの世を去らなければならなかった人々に向ける井上ひさしさんの眼差しがやさしい。
そんな切符だから、命のバトンをつなぐように手渡しで受け継がれていくのかもしれません。


位置情報 下宿屋の稲垣未亡人・木野花さんが、訪ねて来たお父さんに賢治の生活ぶりを説明する時、珍しく台詞が飛んでしどろもどろになっちゃって、辻萬長さんがあの厳格な顔のまま「夕食は?」と助け舟を出していました。それを聞いた木野花さん、「いいんですか?夕食で。もっと布教活動とかいろいろやってるんですけど・・」と少し笑いながら。
木野花さんの可愛らしっぷりと全く表情変えない辻さんの対照がおもしろかったです。


IMG_5564.jpgこちらが思い残し切符。
カーテンコールでは井上くんが舞台上に落ちた切符を拾って二度、客席に向かって投げてくれたけど、軽過ぎて客席まで飛ばずあせあせ(飛び散る汗)



心にひたひた沁みてくる 何年か経ってまた観たい作品でした のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1098 わーい(嬉しい顔) vs 1104 ふらふら)
posted by スキップ at 23:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
井上君は九州男児なんですか~~?!
ひゃ~!それにしても東北弁がお上手でしたね!!
>今度関西弁も聴いてみたい
いや本当に!!私も聞いてみたいです!(笑)
井上先生らしい素敵な作品でした。
なんとな~~く微妙に知ってる賢治さんのお話が
出てくるのかなあ・・と思ってたら
ぜんぜん違う切り口からのお話で・・・
毎度ですが、井上脚本は素敵です。
Posted by かずりん at 2013年12月05日 12:15
♪かずりんさま

井上芳雄くんは福岡のご出身だそうですが、東北弁、ほんとに
お上手でしたよね。
関西弁もきっと違和感なく話せるのではないかしらと思っています。

宮沢賢治の評伝としては異色ですよね。
でも生きる者、死にゆく者への視線がやさしく温かくて、
やはり井上ひさしさんだなぁと思いました。
「太鼓たたいて笛吹いて」も楽しみ♪
Posted by スキップ at 2013年12月05日 23:39
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