2013年11月08日

刀のひとつもない 「鉈切り丸」

natagiri1.jpg追い詰められた範頼。
血まみれになりながら空を見上げ、「鳶よ、羽をくれ、代わりにこの鎌倉をくれてやる」と哀切に叫びます。
ボズワースの戦いで「馬をくれ、馬を。代わりに我が王国をくれてやる」と叫んだリチャードと重なって、この物語がまぎれもなく「リチャード三世」の世界を描いたものだと改めて感じた瞬間です。


PARCO THE GLOBE TOKYO PRESENT
いのうえシェイクスピア  「鉈切り丸」
脚本: 青木豪
演出: いのうえひでのり
音楽: 岩代太郎
出演: 森田剛  成海璃子  秋山菜津子  渡辺いっけい  千葉哲也  山内圭哉  木村了  須賀健太  
宮地雅子  麻実れい  若村麻由美  生瀬勝久 ほか

2013年10月17日(木) 6:30pm オリックス劇場 1階4列目センター/
10月24日(木) 6:30pm 1階15列目上手



青木豪・いのうえひでのり・森田剛 といえば「IZO」と同じ顔合わせ。
映像を多用した演出には思うところがあったものの、「人斬り以蔵」と恐れられた以蔵の心の闇や孤独の描き方はとても好きだったので、今回も楽しみにしていました。

歴史に名を残す源頼朝、義経の異母兄弟で、誰もに知られる存在ではない源範頼が主人公。
彼はリチャード三世と同じく、せむしでびっこで顔には醜い痣がありますが、悪魔のように切れる頭とよく回る邪悪な舌を持ち、凄まじいまでの上昇志向で自分の邪魔になるものを陥れ、殺し、権力の頂点へと昇りつめていきます。そこに待っていたものは・・・。


シェイクスピアの「リチャード三世」を薔薇戦争から日本の源平合戦の時代に置き換えた物語。
これが本当にピタリとハマって、まずは脚本の勝利。
「鉈切り丸」という単独の物語としてもおもしろいし、いろんな場面で「リチャード三世」とシンクロしてしていて、なーるほどぉ、と感心することしばしばでした。木曽義仲が頼朝に追われ逃げ落ちる場面から始まり、衣川で義経が自刃して果てるまでが一幕。
範頼が権謀を駆使して邪魔者を次々消し去り、ついに征夷大将軍となった後に迎える結末を描く二幕。
頼朝と義経の確執にも実は範頼が介在したという設定になっているのですが、安宅の関の勧進帳のくだりが語られたり、義経が平泉へと逃れる場面は舞台を下手から上手へ走って横切るだけなのだけど、ちゃんと弁慶+四天王が従っていたり、もちろん弁慶の立往生もアリ、で源平好きプチ歴女の血が騒ぎました。

よく知られた史実とフィクションをない交ぜにして展開するこの物語には大江広元(山内圭哉)が登場し、源頼朝家に起こることを「吾妻鏡」として書き綴っているのですが、すべてが露呈した最後に、北条政子(若村麻由美)の「源の家にそのような邪悪な者があってはならぬ」という意向によって書き換えるよう指示され、範頼はその容貌は元より、その存在さえなかったもの、実像とは異なったものにされてしいます。
・・・だから範頼の物語は頼朝や義経ほど私たちは知らないんだ、と観ている私たちに思わせ、さらには、そのことを知った範頼の「俺の存在を消すな」「ちゃんと書き遺せ!」という末期の悲痛な叫びにもつながって、上手いな、と思わずにはいられませんでした。
「歴史は如何様にも書き換えられる」という政子の言葉、そら恐ろしいです。

ひとつだけ不満があるとすれば源頼朝・北条政子夫妻の描き方でしょうか。
ちょっと癒し系というか、お笑い部分担当に走りすぎる感じ。北条政子が女傑で頼朝の尻をたたいて・・・という二人の関係性もステレオタイプな印象。
もちろん役者さんの演技云々ではなく、脚本であり演出のあり方がということですが。
宮地雅子さん比企尼の着ぐるみなんて、全く不要なのでは・・・(暴言)。

頼朝はヘラヘラ飄々としていて政子のお尻に敷かれているように見えるけれど、実は裏も凄味もある、という方が好み。生瀬勝久さんのそういう演技、観てみたかったです。
ただ、この物語において頼朝はエドワード四世のポジションなので、「人を疑うことを知らないおおらかな人物」ということになるのかなぁ。

その描かれ方は別にして、若村麻由美さんの政子はすばらしかったです。
キリリと美しいし、強さも激しさんも持ち合わせて、頼りない(笑)頼朝に代わって、源家の中心に立つ華もあって、最後は持ってっちゃった感じです。
リアルに生きていて現世や権力への執着心も人一倍といったリアリティの若村政子 vs 源氏への怨念を昇華してすべてを超越した、魂といった存在の麻実れい建礼門院。「リチャード三世」ではエリザベスとマーガレットにあたるこの二人がお堂で対峙する場面はあまりの迫力に息をのむ思いでした。

この二人の存在感が傑出しているので、本来ヒロインである巴御前の印象が弱い。
成海璃子ちゃんがんばれ。多分がんばっているのだろうけれど、もっともっとがんばれ。
年齢的なことや諸事情のパワーバランス?を考えなければ秋山菜津子さんがイメージとしては巴にぴったりだと思うのですが。
秋山さん演じる母イトが生まれた時から鉈切り丸を憎悪している点は私にはいささか理解し難かったです。
義朝の子を身ごもることによって取り立てられると思っていた目論見が外れた悔しさはわかりますが、醜く生まれたからといってまだ物も言わぬ赤子を殺したいほど憎むとは。

舞台で拝見するのは久しぶり、相変わらずよく通るいい声にホレボレ渡辺いっけいさん景時。
武力も知力も兼ね備えた感じな上に何だか色っぽい千葉哲也さん弁慶。
演技はもちろん、若さあふれてキレのある殺陣も披露してくれた須賀健太くん義経と木村了くん義盛など、もったいないくらい贅沢なキャスト。


そして森田剛くんの範頼。

眼光鋭く、鬱屈していて冷酷で、時に狂気とも思える凶暴性を秘め、強さも弱さも危さも孤独も、そして哀しさも併せ持つ範頼。
最初に観た時は、もちろん極悪人なのだけど、哀しみが色濃くて、「ヴェニスの商人」の猿之助さんシャイロックにどこか重なったりもしたのですが、1週間後に観た範頼は激しさも凄みも格段に増していました。
身体にあんなに負荷をかけられて、あれだけの殺陣やって軸がブレないどころか殺陣そのものが美しい身体能力の高さにも驚かされます。少し甘ったれた少年のような口跡は相変わらずですが、たとえば巴を殺す場面で、巴を後ろからはがい締めにして真っ直ぐ前を見据えてピタリと決める姿、表情が完璧なまでに絵になっていて、長い間トップアイドルとして数々の場を踏んだ底力を知りました。

ラスト。
かくまわれた民家で追手の襲撃を受け、あれほどの剣の遣い手なのに、「刀のひとつもない」と母を見て自嘲気味につぶやき、壁にかかった鉈を手にとる範頼が哀しい。
それを見て「ほんにワシはお前によい名をつけたものじゃ」と嘯いて皮肉に笑う母を鉈で斬りつけ、外に出てその鉈を振り回す範頼が切ない。

この立ち回りの場面の水を使った演出に「朧の森に棲む鬼」を思わないでもないですが、あれはむしろ、鉈切り丸が母親の胎内にいた頃の羊水のメタファーだったのか、とも・・・。

そして最期の「鳶よ、羽をくれ」の叫びです。ちょっと震えちゃったな。
曲がった背中に憎しみをすべて背負って生まれてきて、ずっと下を向いて生きてきた範頼。
だから上に行きたかった、空を飛びたかった、自分がこの世に生きていたことをちゃんと遺したかったという悲痛なまでの心の叫びに涙たらーっ(汗)


息絶えた範頼の遺体を山に捨て置けと命じる景時。
「やがて鳶が食いつくすだろう」という言葉は、そんな範頼に見せた景時の最期のやさしさのようにも感じたのでした。



位置情報 カーテンコール。鳴りやまない拍手に最後に森田剛くんが一人上手に現れて手を振るのはお約束なのかな。2回ともありました。
憑きものが落ちたような、はにかんだような可愛い笑顔。あれはファンでなくてもヤラレますね。
森田剛おそるべし!


位置情報 本日は「鉈切り丸」東京公演初日。おめでとうございます。
激しい立ち回りや本水の演出もある舞台。皆さまお怪我などなく無事千秋楽を迎えられますよう。



諸般の事情により持っていたチケットを手放してしまったのですが、やっぱり東京でも観ればよかったなぁと若干後悔 のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1088 わーい(嬉しい顔) vs 1096 ふらふら)
posted by スキップ at 23:58| Comment(8) | TrackBack(1) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
その東京初日に見てきて、いまやっと拝読!
うん、うん、と頷きながら読みましたよ~。
麻実れいvs.若村麻由美、素晴らしかったですね。
後々まで、「鉈切り丸」というと、森田-麻実-若村、の3人を思い浮かべるに違いない。
特に麻実さんには、「リチャード三世」のマーガレットをくっきり感じて、すごかったなー。
不満(?)は、やっぱり笑いの部分のバランスかしら。比企尼があれなので、むしろ引いてしまいました。
成海さんは、周りの芸達者な女優さんたちから、たくさん吸収してほしいな、と思ったのでした。
Posted by きびだんご at 2013年11月12日 08:15
今日観てきました。めっちゃ良かったです。森田剛くんは初めてだったのですが、見方変わりましたね。
非常に男子が少ない客席だったので、気を使いましたよ。鉈切り丸、観れて良かったです。
Posted by ケン坊 at 2013年11月12日 17:52
♪きびだんごさま

初日をご覧になったのですか。いいなぁ。うらやましいです。
見応えある作品でしたね。
森田・麻実・若村・・・ほんとにその通りです。
いのうえさんの「リチャード三世」といえば、前回の
古田新太版を思い出しますが、あの時のマーガレット・銀粉蝶さん
もとても印象に残っていますが、麻実さんもすばらしく、
もしかしたらいのうえさんはこのマーガレットという人物に
思い入れがあるのかもしれませんね。

きびだんごさまはもう一度ご覧になるのですよね。
大阪から東京で進化した鉈切り丸。更なる進化&深化が楽しみです。
Posted by スキップ at 2013年11月12日 23:45
♪ケン坊さま

森田剛くんの舞台、初めてでしたか。
アイドルの副業とはとても言えないすばらしい
役者さんですよね。
いのうえさんや蜷川幸雄さんが好んで起用される
のも納得です。
あ~、皆さんのコメント読んでいたら私もまた
観たくなって困ります(笑)。
Posted by スキップ at 2013年11月12日 23:51
こんにちは。東京公演もさっそく見てきました。

私も大阪で見て、源頼朝・北条政子夫妻のステレオタイプな描き方に不満があったのですが、何故か東京で見たら気にならなくなりました。
そして女優さんそれぞれの良さが、より鮮明になっていました。
成海璃子ちゃんが、かなり良くなっていたのが印象的です。

ただ前方で見た為か、オーブの音響の悪さが気になってしまいました。
音響に関しては、オリックス劇場の方が良かったと思います。
Posted by 花梨 at 2013年11月13日 00:38
♪花梨さま

東京公演、もうご覧になったのですね。
よくなった成海璃子ちゃん、私も観てみたいです。

頼朝夫妻については、今になって思えば私もあれで
よかったのかな、という気がします。
でもとうで、まわりも含めてお芝居が変化したのかも
しれませんね。

オーブは私も今年二度行きましたが、やはり音響の
印象は悪かったです。ミュージカル中心の劇場と
聞いていますが、どうしたものでしょう。
Posted by スキップ at 2013年11月13日 05:53
スキップさん、こんばんは。
私も先日東京公演を観てきました。
やっぱり森田くん、麻実さん、若村さんに目を奪われました。
特に麻実さんは凄かったですね!
あの存在感は本当に素晴らしいし、
マーガレットという役を健礼門院に当てはめたことにも感嘆しきりです。
カーテンコール、電車の時間の関係で最後まで見れなかったのですが、
最後に森田くんはそんな笑顔を見せてくれたのですね。
私の中では範頼の表情のまま終わっているので、
なんだか切なく重苦しい気持ちが残っています。
その笑顔、見たかったです。
Posted by 恭穂 at 2013年11月13日 21:47
♪恭穂さま

とても見応えのある作品でしたね。

そうそう。マーガレットを建礼門院に、という着眼でまず成功していますよね。
その意図に十分応えた麻実れいさんの存在感、凄かったですね。
このところ他の作品でもちょっと役不足では?と思うところがあったのですが
今回はたっぷり「麻実れい」を楽しませていただきました。

カーテンコールの森田剛くんのちょっとはにかんだ笑顔はほんとに
かわいくてねぇ~。おばさんのハート、鷲づかみされました(笑)。
Posted by スキップ at 2013年11月13日 23:38
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『鉈切り丸』
Excerpt: 『いのうえ シェイクスピア 鉈切り丸』~W・シェイクスピア<リチャード三世>より
Weblog: 酒と芝居の日々
Tracked: 2013-11-13 00:39