2013年03月23日

誰の真実を探しているの? 「テイキングサイド」

takingsides.jpg「テイキングサイド」というタイトルは「どちらの側に立つか」という邦題がつけられることが多いようですが、原題は「takingsides」と複数形なのだとか。
芸術 vs 政治、ナチ vs 反ナチ、国民と政治、「サイド」はひとつではないという象徴でしょうか。

「テイキングサイド」
作: ロナルド・ハーウッド     訳: 大防一枝
演出: 行定勲  
出演: 筧利夫  平幹二朗  福田沙紀  鈴木亮平  
小林隆  小島聖

2013年2月24日(日) 1:00pm シアター・ドラマシティ 
2列センター


終戦まもないドイツ。ナチス統治下のドイツでベルリン・フィル常任指揮者だったフルトヴェングラー(平幹二朗)を取り調べるアメリカ人少佐アーノルド(筧利夫)。ジェノサイドの目撃者である彼はナチスへの憎悪に燃え、フルトヴェングラーにナチス党員の嫌疑をかけ、それを暴こうと執拗に尋問を続けます。誇り高いフルトヴェングラー7はヒトラーには決して組み入らなかったという自負を持っていますが、その高きプライドゆえに持つ心の翳り・・・。

台詞の中でゲッベルスやヒムラーの名前が出るたびに「国民の映画」の小日向文世さんや段田安則さんの顔が頭に浮かびました。
そして、同じく何度も名前が出てきた指揮者 トスカニーニの娘が、先日段田さんで観たホロヴィッツの妻だったなんて、なんていう3作品のリンクなのでしょう。アーノルドとフルトヴェングラーの緊迫感のあるやり取りの中で描かれる理想と現実。
戦時下で、自分の身を守るため、自分の地位を保つためにしたことの罪は、果たして問われるのか。とても重く厳しい命題。

「自分はヒトラーに組みしたことなど一度もない」という信念のもと、鷹揚にアーノルドの質問に応じるフルトヴェングラー。
これが二幕になると一転。
ヘルムート・ローデ(小林隆)から得た情報を元にフルトヴェングラーに揺さぶりをかけてゆくアーノルド。若き指揮者カラヤンへの嫉妬や女性関係をあげつらうことで、フルトヴェングラーがドイツに残ったのは祖国愛のためでもドイツ国民のためでもなく、ただ自分の地位にしがみつきたい、それをカラヤンに渡したくなかったからではないかと追求します。
うーん。ここがなぁ。ウィルズ中尉(鈴木亮平)も指摘していたように、これらがすべて真実だとしても フルトヴェングラーとナチスとの関係は何ら証明されないのではないかしら。フルトヴェングラーにとっては、そのプライドを傷つけられることで十分だったのかもしれませんが。

ただ、二幕冒頭でアーノルドの夢に出てきたホロコーストの映像は、身をすくめるほどの悲惨さで、これを記憶に刻まれたアーノルドのナチスへの嫌悪はどれほどのものかは窺い知ることができます。だからアーノルドが「疑わしきは罰せず」の逆で、少しでも疑惑のある者に対してナチスと結びつけ、それを断罪したいという思いは理解できます。

結局、スリリングな尋問の結果は、勝敗も答えも明示されることはありません。
音楽への信念を持ち続け、ドイツにとどまり続けたフルトヴェングラー。フルトヴェングラーをナチスの関係としてとらえたアーノルド。フルトヴェングラーを尊敬し擁護するウィルズ、エンミ、そしてタマーラ。自身の「転向」を暴かれて豹変するローデ。それぞれの立場で見えるもの、感じるものは違うし、そこにはそれぞれの真実があるけれど、その真実は同じ一つとは限らない・・・「誰の真実を探しているの?」とタマーラ(小島聖)がアーノルドに放った言葉が印象的でした。

平幹二朗さんのフルトヴェングラーがとにかく素晴らしく、登場の瞬間から観客の目をくぎ付けにする圧倒的な存在感。
最初は余裕綽綽で鷹揚に応じていた尋問にやがて動揺し、焦り、狼狽し、苦しむ様が、威厳のプライドを身にまとった偉大な芸術家が一人の人間に戻っていく過程を私たちの眼前にまざまざとさらしてくれました。自分が指揮したブルックナーの交響曲第7番のレコードを流され、「ヒトラーが頭を撃ち抜いた直後にラジオで流された演奏だ」とアーノルドに言われた時の表情が忘れられません。

ラスト。
ベートーベンの第九 第1楽章が静かに流れる中、去っていくフルトヴェングラー。
光の中、指揮棒を持たない手でタクトを振るその背中が切なかったです。


フルトヴェングラーって確か戦後、シカゴ交響楽団常任指揮者の話があったのにホロヴィッツやルービンシュタインの反対でボツになったんだよね の地獄度 ふらふら (total 1072 わーい(嬉しい顔) vs 1073 ふらふら)
posted by スキップ at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック