2012年11月02日

野田マジック 「エッグ」

egg.jpg物語の終わり。
苺イチエ(深津絵里)を追い立てるように伴ってその場を去るオーナー(秋山菜津子)や消田監督(橋爪功)。
ここは満州。日本の敗戦によって、急ぎ帰国するために。
ただ一人取り残される阿部比羅夫(妻夫木聡)。
車椅子に乗り、半ば意識を失って。
人々が去り、音もない世界。
その時、舞台奥からタッタッタッと駆けて来る靴音。
戻って来たのは苺イチエ(深津絵里)。
「私はこの人とここに残る」と。
あの靴音が今も耳に響きます。

NODA・MAP 第17回公演 「エッグ」
作・演出: 野田秀樹
音楽: 椎名林檎
美術: 堀尾幸男  照明: 小川幾雄  衣裳: ひびのこづえ 
出演: 妻夫木聡  深津絵里  仲村トオル  秋山菜津子  大倉孝二  藤井隆  野田秀樹  橋爪功 ほか


2012年10月13日(土) 7:00pm 東京芸術劇場 プレイハウス 1階J列下手


「改装中」の劇場を見学する女子学生と案内係(芸術監督の愛人・・野田さんの女装)とのやりとりに笑ったり、私の座席横の通路を通るのを喜んだりしていたのはほんのプロローグ。
目の前で繰り広げられる物語がそのまま時空を超え、思いがけない真相や炙り出される真実のテーマに圧倒され、心震えたノンストップの2時間10分。タイトルの「エッグ」はスポーツの種目名。団体競技らしい。
ベテランの粒来幸吉(つぶらいこうきち/仲村トオル)、エース番号の背番号7。
田舎の農家から出てきた新人・阿倍比羅夫(あべひらふ/妻夫木聡) まだレギュラーになれなくて、背番号137。
エッグの試合の開会式で君が代を歌う人気歌手・苺イチエ(深津絵里)。あわよくば粒来と結婚を目論んでいるようです。

もう少しのところでオリンピック出場を逃すチーム。
いつの間にか時は東京オリンピックの時代へ。
4年後、満を持して出場権を獲得し喜んだのもつかの間、今度はそのオリンピックが開催されないと言う。
彼らが目指していたのは、1964年の東京オリンピックではなく、実は日中戦争の影響で開催されなかった1940年の東京オリンピックだったのです。

スポーツに対する熱狂やナショナリズムは戦争への高揚とも通じ、扇動され駆り立てられる大衆。
ロッカーを抱いて横切る群衆がいつの間にか満州の避難民になっていたり、「エッグ」というスポーツのドラマを観ていると思っていたら、それが戦争の狂気へとドラスティックに転換する様は、まるで野田さんに魔法をかけられたよう。
客席の誰もが息をつめて・・というか呼吸するのも憚られるような静寂の中で、ただ物語の成りゆきを見つめていました。

プレヒト幕を思わせる半透明のビニールカーテンで仕切られた密室に閉じ込められた女性が苦痛に顔を歪める表情が透けて映し出され、それはナチスのガス室を思い起こさせて背筋に冷たいものが走り、そこまで来てあっ!と思いました。
ここは満州。阿部の背番号137は731部隊のことだったのかと。
そう考えると、ここまでにたくさんのキーがありました。
医学生だった粒来。ワクチンを作る作業から生まれた、一切記録することを許されなかった競技「エッグ」。日本チームのスパイをしていた女学生の名前は○田=マルタ。

世論を誘導する宣伝映画やツイッター(つぶやき)へのシニカルな目線、扇動されやすい大衆、ジェンダーへの問題提起、そして何より、過去の罪を忘れ去ろうとする者への警鐘。
これらを決して説明的でも教訓的にでもなく私たちに「感じさせて」くれる野田さん。お見事です。

冒頭に書いた場面
遺書をのこして自殺したはずの粒来は生きていて、すべての罪を阿部になすりつけ、「エッグ」で気絶させ、背番号7のユニフォームを着せかけて満州を去ります。
「さあこれからみんなで逃げるのよ。過去から逃げましょう」と苺を促して去ろうとするオーナー。
だけど、苺イチエは、間違いで結婚する羽目になった(それすらも彼らの計画だったと今ならわかる)、愛していないはずだった阿部とともに満州に残る道を選ぶのです。
あの静寂の中に響いた苺の靴音に救われた思い。


ただ人がいいだけの農家の三男坊が、訳もわからず利用された末、闇に葬られようとする阿部。
ストイックで硬派な筋肉系と見せかけて、実は冷徹な頭脳系だった粒来。
妻夫木聡、仲村トオルの柔剛、明暗の対比が鮮やか。
そして、みんなが思ったことだと思うけど、仲村トオルさん、カラダ鍛えてますね~。

ちょっと能天気な自己チュー女が真実を知り次第に覚醒していく苺イチエ。
深津絵里ちゃんのキュートさったらなかったです。、
歌もカワイイ声だし、ひびのこずえさんのポップな衣装もよくお似合い。

そして、人の上に立つのが当然と言わんばかりにコマのように人心を動かす監督とオーナー、
橋爪功さんとと秋山菜津子さんの迫力。
特に橋爪功さんの、柔らかな物腰と声なのにもかかわらず、絶対に逆らうことができないような凄みと怖さ。

余談ですが、阿部、粒来という役名からは、アベベ、円谷幸吉というマラソン選手の名前が想起され、それが最初にここに出てくるオリンピックは「1964年の東京オリンピック」だととミスリードされることにもつながった訳ですが、円谷幸吉さんと言えば、彼の遺書をテーマにした「一人の道」という歌が昔、深夜ラジオで流行したことがあり、♪だけど身体は動かない とってももう走れない という歌詞が車椅子に乗る阿部に少し重なったりもしました。


IMG_6216.jpg東京芸術劇場は改装後初めて。
何だかちょっぴりルーブル美術館っぽい。




NODA・MAP 次回公演は2013年秋 のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1013 わーい(嬉しい顔) vs 1015 ふらふら)
posted by スキップ at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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