2012年10月16日

11月文楽公演がますます楽しみ! 「仏果を得ず」

bukka.jpg「チョコレートコスモス」おもしろかった!っていうエントリへのコメントで「こちらもおもしろいですよ」とみんみんさん恭穂さんが薦めてくださった本はぜーんぶ買った(笑)のですが、その中の一冊。

「仏果を得ず」
作: 三浦しをん
単行本: 双葉社     2007年11月
文庫本: 双葉文庫   2011年7月


文楽の世界を描いた作品。「若手大夫の成長を描く青春小説」というキャッチフレーズがついていますが、これ、非常におもしろかったです。紹介していただいてありがとーっ!!という感じ。
文楽を知らなくてももちろん楽しめますが、文楽と少しでも接したことがある人ならより一層興味を持って読むことができますし、次に文楽の公演を観る時に感じ方が変わったりするのではないかしら。
通勤電車の短い時間に切れ切れに読んでいてもかなり面白くて、早く続きが読みたーいと思いながらままならず、今回の東京遠征の移動時間にもう一度最初から一気読みです。しかも読了後、もう1回ざっと読み返したくらい。

主人公は笹本健(たける)大夫 30歳。
高校の修学旅行でいやいや文楽を観て、ある大夫の石をぶつけるようなエネルギーに射られるように文楽の道を志し、文楽研修所で学んだ後、現在はその大夫・人間国宝 笹本銀大夫の弟子として文楽の世界に生きています。この健をはじめ、まわりの人たちがとても人間味あふれ活き活きと魅力的。
80歳になる銀大夫師匠は、「黄金にまさる銀大夫」と讃えられた人間国宝で、芸にはとても厳しいながら自由奔放。甘いものが大好きで、奥様の目を盗んでは若いおねーちゃんと遊んだりもします。この師匠が実に破天荒で愛すべき人物。誰かモデルがいるのかしら?と考えてみたり。
その銀大夫に命じられて組むことになった三味線の鷺澤兎一郎。実力は折り紙つきですが、ストイックな一匹狼でどこか心に屈折したものを抱えているよう。
この兎一郎が、組むことを渋々承知した健の文楽への情熱や役の解釈に触れ、心を溶かしていく様は読んでいてもうれしくなります。
「大事のお弟子さんを預けてくださいまして、ありがとうございます」と、第一章で師匠の前に両手を畳について頭を下げた兎一郎。
健とともに義太夫の道を極める決意をして、「銀大夫師匠、健大夫を預けてくださいまして、ありがとうございます」と物語の最後にもう一度正座する姿が印象的でした。

兎一郎の師匠である四世鷺澤花太郎が亡くなった日、40年以上相三味線でコンビを組んだ人間国宝の七世笹本岩大夫が、「花のやつを焼かんといてくれ。こいつの手は宝や。俺の生涯の宝なんや」と泣き崩れた、と、わずか5行ほどのサイドストーリーで語られるエピソードにも胸がいっぱいになって涙したりたらーっ(汗)

そして健がボランティアで義太夫を教える小学生・ミラちゃんと、その母親であるオカダマチさん。この母にしてこの娘ありのきっぱりした母娘が健の人生に深くかかわっていきます。
「俺にとっての一番は未来永劫、義太夫なんです。真智さんは二番目です。それでもええですか」と愛する人にさえ宣言するほど文楽を愛し、芸に恋に、様々な悩みを抱えながら、周りから温かく厳しく叱咤激励されながら成長していく健大夫。

国立文楽劇場、南座、国立劇場、愛媛の内子座・・・文楽ファンにとっては馴染みある劇場が舞台となっていたり、銀大夫師匠のお住まいが私の地元だったり、とほんとに読んでいて楽しい。
登場人物たちの会話がとても活き活きしていてリアルなので、銀大夫や健大夫、兎一郎などが実在する文楽の技芸員さんのように思えてきたくらいです。ま、いくら何でもこんなベタベタの大阪弁は今どき話しませんよ、とは思いますが、それもご愛敬。

描かれる全八章は「幕開き三番叟」 「女殺油地獄」 「ひらかな盛衰記」・・・とすべて文楽の演目になっていて、健や銀大夫たちが演じる場面もふんだんに出てきます。ひとつの台詞を深く掘り下げる健と一緒にその演目を味わえるのもこの本のもう一つの魅力。
文楽でも歌舞伎でも苦手な「本朝二十四考」なんて、今すぐ大夫の語りで聴いてみたいと思いましたし、「妹背山女庭訓」の吉野川の場面は読んでいて、歌舞伎座で観た両花道がありありと目に浮かんできましたもの。そしてあの頃は何にもわからずに観ていたなぁ~と。ミラちゃんでさえ一度聴いて泣くくらい理解できるというのに。

そして最終章は「仮名手本忠臣蔵」。
健大夫が配役を見て、自分で「うそだろ・・・」とつぶやいたほど、並み居る先輩格の大夫を飛び越えての大抜擢。

早野勘平腹切の段  大夫   笹本健大夫
              三味線  鷺澤兎一郎

タイトルの「仏果を得ず」は、この「仮名手本忠臣蔵」の早野勘平の最期の台詞から。
「思へば思へばこの金は、縞の財布の紫摩黄金。仏果を得よ」という原郷右衛門に対して、勘平最期の力を振り絞っての絶叫。
「ヤア仏果とは穢らはし。死なぬ死なぬ。魂魄この土に止まって、敵討ちの御供する!」
忠義を描くのではなく、忠義に翻弄されるひとの心の苦しみと葛藤を描いた「仮名手本忠臣蔵」。
この「仮名手本忠臣蔵」の深淵にひそむ真実を精魂込めて声の限り伝える健大夫。

11月の国立文楽劇場 「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」が今からますます楽しみになりました。


Twitterで教えていただいた「あやつられ文楽鑑賞」もこの後読みます のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1003 わーい(嬉しい顔) vs 1006 ふらふら)
posted by スキップ at 23:01| Comment(2) | TrackBack(0) | books | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
スキップさん♪
こちらもお気に召して頂けてよかった!
私もこの本を読んだ後、文楽をすごく見たくなりました。
(名古屋ではなかなか難しいんですけどね)
そうかあ、お腹が痛いと声が出ないんだ・・
っていうエピソードが何故か印象的で(笑)。
私も久しぶりに再読したくなりました。
あの頃よりは歌舞伎も観ているので、新たに気づく事が
ありそうな気がします!!
Posted by みんみん at 2012年10月17日 22:35
♪みんみんさま

とてもおもしろかったです。
登場人物があまりに活き活きしているので、何だか実在の大夫さんや
三味線弾きさんに思えてくるくらいでした。
教えていただいて本当にありがとうございました。

そうそう、歌舞伎としての演目にもより理解が深まるように思います。

歌舞伎と同じで文楽も長丁場ですのでなかなか遠征に組み込みにくい
と思いますが、国立文楽劇場は幕見もありますので、大阪にいらっしゃる折に
機会があればぜひ一度!その時は私もご一緒させていただきたいです。
Posted by スキップ at 2012年10月17日 23:46
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