2010年10月08日

やけに散りやがる桜だなぁ

sakichi.jpgもう10月の歌舞伎もとっくに始まっちゃっていますが・・・。
4演目あった秀山祭昼の部の中ではこれがピカイチぴかぴか(新しい)

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部 
江戸絵両国八景 荒川の佐吉
作: 真山青果 
演出: 真山美保 
出演: 片岡仁左衛門  中村福助  片岡孝太郎  市川染五郎  片岡千之助中村歌六  市川段四郎  中村吉右衛門 ほか

9月26日(日) 1:50pm 新橋演舞場 1階5列上手

あらすじ: 大工からやくざに身を転じた佐吉(片岡仁左衛門)。親分の鍾馗の仁兵衛(市川段四郎)は、浪人成川(中村歌六)に片腕を斬られ落ちぶれたところへ、娘のお新(中村福助)の生んだ卯之吉(片岡千之助)を預かりますが、卯之吉は生まれつき盲目でした。仁兵衛が死に、卯之吉を育てることになった佐吉。大工時代の仲間辰五郎(市川染五郎)の家に身を寄せ卯之吉とともに暮らしますが、卯之吉を取り返しにやって来た者の一人を殺してしまい、肝の据わった佐吉は成川に挑んで仁兵衛の敵を討ちます。それを見守った相模屋政五郎(中村吉右衛門)。やがて仁兵衛の縄張りを取り戻し、立派な家を構えて暮らしている佐吉のもとに、お新を伴って政五郎がやって来ます。卯之吉を返して欲しいというお新の訴えを承諾できない佐吉でしたが、大身代の丸総に返した方が卯之吉の将来のためになると政五郎に説得され、別れを決意します。そして佐吉は、一生を旅人として送ると、満開の桜の中、旅立つのでした。


「荒川の佐吉」は仁左衛門さんの当たり役ということですが、今回初見。
若干苦手な新歌舞伎で、2時間5分休憩なしの大作でしたが、最後まで集中力途切れることなく観ることができました。何といっても仁左衛門さんの佐吉が魅力的。
「強い者が勝つんじゃねぇ。勝った者が強いんだ」というやくざの世界に憧れ、三下奴のようなことをしていた佐吉が、たくさんいた鍾馗の子分たちの中でただ一人、最後まで親分を慕い、そのために目の見えない卯之吉を男手一つで育てる羽目になるものの、卯之吉を慈しんで懸命に育て、その卯之吉を取り返しに来た使いを殺したことで、「人間、捨て身になれば恐いものなんかない」と、心の中で何かが劇的に変化し、敵を討ってやがて親分となっていきます。そして、将来を考え卯之吉を手放し、惜しまれつつ一人旅立って行く・・・任侠の世界を描くというより、佐吉という男の成長物語です。

男気があって、笑顔やさしく、そして時折見せる孤独の影・・・初演の十五代目市村羽左衛門さんは、「最初はみすぼらしくて、最後はぱっと桜の花の咲くような男の芝居」を書いてほしいと真山青果さんに依頼したそうですが、まさにその表現がぴたりとくる佐吉でした。
仁左衛門さんは、最初の三下奴の頃は、いささか貫禄ありすぎの観がなきにしもあらずですが、終始卯之吉への思いを感じさせて、涙をしぼらせてくれます。
お新が佐吉を返してほしいと懇願する時、骨身を削る思いで育てた卯之吉をもぎ取られる苦しみを切々と訴える言葉も、「子どもの将来のため」と政五郎に言われ、苦しく辛い別れを決める心情にも泣かされますが、ワタシ的一番のツボは、お新と政五郎が訪ねて来た時、「卯之を下へ」と辰五郎に託し、一階へ降りていく卯之吉を、階段の降り口まで追って見送る時の何とも切なそうな表情。あの時すでに卯之吉との別れを覚悟していたのでしょうか。

染五郎さんの辰五郎がまたとてもよくて、佐吉―辰五郎―卯之吉の強い絆に心温められ、泣かされます。明るくて、人の良さが自然に滲み出てくる辰五郎。主役の佐吉の邪魔にならず、辰五郎としての光も放つ・・・染五郎さん、こんな役、本当にお上手です。
千之助くんの卯之吉は台詞がしっかりしていて感心。動きも自然で、やはり血筋を感じずにはいられません。

大親分の風格たっぷりで場を引き締めた吉右衛門さんの政五郎、人間の弱さとか脆さを見せてくれた段四郎さんの仁兵衛、凄味すら感じさせた歌六さんの成川、ちょっと出て来てすぐ斬られちゃったけどオットコ前な錦之助さんの清五郎など、周りの役者さんもすべて好演で、見応えたっぷり。

これに対して、真山青果さんは女に何か恨みでもあるの?と勘繰りたくなるくらい(笑)この作品に出てくる二人の女性は身勝手。そして二人とも泣いて前非を悔いています。
姉のお新は、世間体のために目の見えない卯之吉を手放しながら、後継ぎができないからと連れ戻しに来るし、妹のお八重は、佐吉と夫婦になって卯之吉を育てろという仁兵衛の言い分に腹を立て、体の不自由な仁兵衛を残してプイッと家を出て行ってしまうし・・・いや、役者さんは好演なのですけどね。特に福助さんのお新。あまりオーバーアクション過ぎずにただただ頭を下げて泣く姿は憐れでした。

向島の土堤の満開の桜の下、政五郎、辰五郎、卯之吉、お八重と見送る人たちを背に、「やけに散りやがる桜だなぁ」と旅立つ佐吉の泣き笑いの笑顔が忘れられません。


位置情報 終演後のロビーではお母様とご一緒の金太郎ちゃん発見。
7月の松竹座千穐楽から2ヵ月しか経っていないのに、「また背がのびたんじゃない?」と相変わらず親戚のおばちゃん目線。いっくん、いつかお父さんみたいにステキな辰五郎やってねムード


惜しいヤツを旅に出すねぇ by 政五郎 のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 697 わーい(嬉しい顔) vs 697 ふらふら)
posted by スキップ at 23:44| Comment(6) | TrackBack(1) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
<お新と政五郎が訪ねて来た時、「卯之を下へ」と辰五郎に託し、一階へ降りていく卯之吉を、階段の降り口まで追って見送る時の何とも切なそうな表情>
私も、あの背中に泣かされました。
染五郎さんの辰五郎がまた素晴らしかったですね!!
配役がピタリと決まった芝居は見ごたえありますね。
Posted by SwingingFujisan at 2010年10月11日 14:40
♪SwingingFujisanさま

そうです。あの背中。
後ろ姿が語るって、このことだなぁ、とあの背中を観て思いました。
染五郎さんの辰五郎も、千之助くんの卯之吉も、もちろん吉右衛門さんも
歌六さんも、ほんとに皆さんすばらしかったです。
「荒川の佐吉」初見でしたが、私の“また観たい歌舞伎”演目入りです(笑)。
Posted by スキップ at 2010年10月11日 23:29
スキップ様
同じ会を観ていたとはっ!
たった3列違いだったのに!ブロック違いだけど…(汗)
梅芸の様に例の場所で遭遇することも出来ず。
残念でございました。

福ちゃんの「オーバーアクション」を恐れていたのですが…。
フツーでとってもよかったです(笑)
「悪い女だ」って福ちゃんはブログでも言ってましたよ。
今回、お八重の事が可哀想になりました。
父親があんなことになった後…
恋人ですよね、彼も浪人の毒牙にかかってしまい。
自暴自棄になって…。でもまあ身勝手なんだけど。

「荒川の佐吉」観て、涙しない時はありません。
今は無き「新国劇」でも観たかったですが…。
もっと早く生まれていればよかった(笑)
何度でも観たい作品です。仁左衛門で♪
Posted by かしまし娘 at 2010年10月12日 13:10
♪かしまし娘さま

ほんとですね~。
梅芸みたいに席は離れていても2回連続幕間に会えたかと思えば
今回のようにわりと近い席でも気づかなかったたり・・・
例の場所には結構立ち寄ったのですが(笑)。

福助さん、キレイなんだけど、ときどき「やりすぎダロ」
って感じることがあって・・(汗)。
でも今回はさめざめとした泣き方もとてもよかったです。
お八重ちゃんもそう考えれば哀れですよね。
しかも恋人のこと忘れ切れてないのに「佐吉と一緒になれ」
なんて勝手に言われたら、家出したくもなりますね。

「荒川の佐吉」は私の胸にも深く刻まれました。
ナルホド、新国劇っぽい。
でも、島田正吾も緒形拳も亡き今、演れる人、いませんよね(涙)。
Posted by スキップ at 2010年10月13日 00:10
コメントを有難うございます。早速URLからスキップさんの記事に飛んできて拝読させていただきましたm(_ _)m
>任侠の世界を描くというより、佐吉という男の成長物語......その佐吉役者の良しあしで全てが決まる作品だと今回つくづく思いました。
>最初の三下奴の頃は、いささか貫禄ありすぎの観がなきにしもあらず......同感です(笑)しかし子煩悩ぶりの可愛さでは右に出るものがいないような気がします。目尻が下がってデレデレの雰囲気は孫の千之助相手だと観ている方も勝手にそうだろうそうだろうという気になってしまいますね。
吉右衛門さんの政五郎は「つきあい」で出ているだけで気が入っていないというご意見もあると聞いていますが、あれだけの貫目を見せて対峙してくれればもう十分だと私などは思っています。いくら佐吉が立派になってもその上をいく大親分の政五郎という役柄で後半の芝居を締めて、佐吉が納得させられるというドラマの展開に説得力が増していました。
10月の「加賀鳶」の仁左衛門の松蔵が実によくて、初めて「加賀鳶」が面白いと思えました。仁左衛門と吉右衛門の円熟期のいまを観ておかないといけないと決意を固めています。
東京では真山青果作品の上演が続きます。どうしようかと思っていた国立劇場の「将軍江戸を去る」「天保遊俠録」の二本立ても急遽観ることにしてしまいました(^^ゞ
Posted by ぴかちゅう at 2010年10月14日 01:17
♪ぴかちゅうさま

佐吉役者の良しあしで全てが決まる作品、というのはまさに
その通りですね。
そして今回の佐吉はその意味でも大成功だったと思います。
私は初見でしたので、他の佐吉を知らないのですが、
仁左衛門さんの佐吉はすばらしかったです。
もちろん、吉右衛門さん、染五郎さんたち周りを支える
役者さんたちの力もあって、作品全体の質を押し上げて
いるのだと思います。
吉右衛門さんは確かにおつき合いで出演していらっしゃる
のかもしれませんが、気が入っていないという感じは
しませんでしたよね。
政五郎の大きさ、懐の深さがよく出ていて、あの人がいたから
佐吉も決心できたのだと納得がいく役づくりでした。
今後も、仁左衛門さん、吉右衛門さんそれぞれの舞台はもちろん、
今回のような大顔合わせも楽しませていただきたいですね。

真山青果さんの作品は、ワタシ的には当たりハズレが大きいの
ですが、今回は○でした(笑)。
ぴかちゅうさんの国立劇場のご感想も楽しみにしています!
Posted by スキップ at 2010年10月15日 00:12
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