2008年12月01日

勧進帳を「聴く」ということ

sandai.jpg衣裳も扮装も振付もなく、手の動きすらない「聴く」だけの勧進帳に、こんなにも心を揺り動かされるなんて。

片岡仁左衛門 親子三代特別公演
歌舞伎舞踊「雨の五郎」 
曽我五郎時政: 片岡千之助

歌舞伎舞踊「時雨西行」
西行:片岡仁左衛門  遊女:片岡孝太郎

片岡仁左衛門独演による「聴く 勧進帳」
片岡仁左衛門
長唄: 杵屋勝之弥連中 杵屋栄津三郎連中
鳴物: 田中傳左衛門社中

11月29日(土) 6:30pm サンケイホールブリーゼ 
2階2M列センター


松嶋屋さんにとって記念の公演であるともにサンケイホールブリーゼにとっても開場記念となる公演。お着物やドレスアップされたお客様も多く、ロビーはとても華やいだ雰囲気でした。

開演に先立ち、仁左衛門さんがご挨拶なさいました。
茶系の紋付袴でピシリとキメたお姿とは対照的にやわらかな関西弁でユーモアをまじえながらのお話に、客席に幾度も笑いが起こりました。「千之助の踊りはまだ勉強中のものでお目だるいこととは存じますが、長い時間をかけて成長過程を楽しむのも歌舞伎を観る楽しみのひとつ。いつか千之助が大人になって親子三代の公演をやるようになった時、『あんたのこんなちっちゃい時、「雨の五郎」観たんやでぇ』と言えるように皆さん長生きしてください」とか(笑)。
最も印象に残ったのは、「芝居もそうですが、踊りも一番大切なのは『人間』です。技術がどうとかよりまずその人物の心で踊ることが肝心」というお話。仁左衛門さんの芸に対する根幹の考え方が垣間見えたようでした。

3つの演目の中でも眼目は、やはり「片岡仁左衛門独演による『聴く 勧進帳』」

緋毛氈が敷かれた上手に長唄連中、下手に鳴物の社中が座すのみのほの暗い舞台。中央にピンスポットを浴びて立つ仁左衛門さん。最初に床本?をお持ちだったので、やはり朗読形式かと思いきや、掲げ持ったそれに一礼して懐にしまわれ、右手に扇子を持つのみのスタイルで立ったまま、イメージとしては“動かぬ一人芝居”という感じ。

そうして、「斯様に候う者は・・・」と始まった富樫の台詞から衝撃を受けました。
冒頭のご挨拶で、「『勧進帳』は長唄がとてもいいんです。台詞もとてもいいんですが、日頃の舞台では、役者の動きに気をとられて台詞をじっくり聴けませんので、今日はぜひ目を閉じてお聴きになってください」とおっしゃった仁左衛門さんの言葉どおり、セリフの一つひとつ、長唄の歌詞(というのか)、三味線、笛、鼓の調べ、それらのすべてが耳に心にビンビン響いて来ます(仁左衛門さんのお言いつけは守らないで目は閉じずにじっと仁左衛門さんばかりを見つめましたが)。
颯爽として力強い富樫、気高く凛とした判官、そして重厚で気迫溢れる弁慶・・・声だけですべての人物を演じ分け、実際に観たことのある仁左衛門さんの富樫と弁慶の姿はもちろん、その場その場の情景が目に浮かんでくるような勧進帳。「圧倒的な演技力を持つ仁左衛門の至芸をご堪能ください」と公演案内のチラシに書かれていましたが、まさしく看板に偽りなし。ぐんぐん物語にひきこまれ、「ついに泣かぬ弁慶も~」と長唄が歌うところではやっぱり落涙たらーっ(汗)

時間は1時間強といったところでしたが、本当に集中して「聴く」ことができ、「勧進帳」という物語の深さ、おもしろさを再認識した思いです。いつまでも聴いていたかったのですが、長唄、鳴物の演奏に、飛び六方で引っ込んでいく弁慶の姿をイメージする中、舞台奥の暗闇から進み出て中央に正座して静かに一礼する仁左衛門さんに万雷の拍手が贈られる場所に、私も居合わせることができてよかったと心から思いました。


「今日の切符代、えらい高いなぁ、思われたんでは」と笑っていらした仁左衛門さん。いえいえ決して高くなんてなかったですのごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 413 わーい(嬉しい顔) vs 414 ふらふら)
posted by スキップ at 00:38| Comment(16) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>スキップさま
南座でも、昨日ご覧になった方々のお噂で客席が盛り上がってました。
残念、拝見すればよかった~。
>長い時間をかけて成長過程を楽しむのも歌舞伎を観る楽しみのひとつ
ほんまそう思います。ただ、寿命が~。同時代の方の応援は絶対ですね。
あ、やっとサド侯爵書きましたが、スキップさまは私がひと月かかったことを分かっておられました。観劇後のおしゃべりも重要と思いました。
Posted by とみ(風知草) at 2008年12月01日 01:10
♪とみさま

松嶋屋ご贔屓様で遠来の方々はほぼ親子三代→南座初日という
コースを辿られたようですね。
「勧進帳を聴く」という体験は初めてでしたが、とても感銘を
受けました。これも口跡よく演技力に秀でた仁左衛門さんならでは
のことでしょうか。これに味をしめて他の演目も「聴かせて」
いただきたいとすら思います。

「サド侯爵夫人」また改めてとみさまのご感想をじっくり拝読
させていただきに参上いたします。
Posted by スキップ at 2008年12月01日 02:19
スキップ さま

この会場記念公演、東京なら是非にも観劇したいものでした。松嶋屋三代によることも魅力的ですが、やはり眼目は、『聴く勧進帳』ですね。

スキップさまの臨場感溢れる感想で、私もその場にいあわせたような気持になることができました。仁左衛門さんが一人で勧進帳を演じ分けることができたのは、まさに芸の力ですね。

う~ん、東京では観て、聴くことができないのでしょうかね?
Posted by 六条亭 at 2008年12月01日 21:32
六条亭さま同様、『聴く勧進帳』のレポートを読ませていただくだけでも胸が熱くなりました。

仁左衛門さんの素晴らしさはもちろんですが、スキップさんの愛を感じましたわ。
Posted by おまさぼう at 2008年12月01日 22:48
コメ連投失礼します。
ワタクシ、帰宿した後あの興奮のままに記事をアップしたのに、30日の間にどうやら誤操作で半分以上消去してしまいまして・・・ 先ほど帰宅してから気付いて、アセアセと泣きながら(ちょっとウソ)書き直しました。
その際に、スキップさんのこちらのエントリも参考人させていただき、記事中にリンクさせていただきました・・・事後のご連絡申し訳ありません。ご了承願わしく<(_ _)>

さてさて、いまだあの感動がうすれず身内に残っております。昨日の初日、仁左丈のお声はまったく問題なく健在でした。千ちゃんも元気にロビーにいました。で、また仁左さんの「ぢいさん」に泣かされまして、土日の2日間でずいぶんと泣いてばかりいました。とみさんと、「顔見世には喜劇も欲しい」と意見が一致しました。
Posted by coco at 2008年12月02日 00:31
♪六条亭さま

これまで歌舞伎の朗読劇は玉三郎さんの「天守物語」しか拝見したことがなく、
あれは複数人での公演でしたので、お一人で、声のみで演じ分けられる「勧進帳」
がどういったものか観る前ははっきりりイメージできなかったのですが、私の想像
をはるかに超えるすばらしさで、仁左衛門さんの七色の声(?)を堪能いたしました。

もし東京で上演される機会があればもっとたくさんの方がご覧になれると思いますので
いつか実現するといいですね。その時は私もまた東京まで聴きに行っちゃうかも(笑)。
Posted by スキップ at 2008年12月02日 01:06
♪おまさぼうさま

「聴く」だけでこんなに感動を味わえるとは、正直言って驚きでした。
本当に本当にすばらしかったんです!

うふふ。感じていただけました?
いや~、愛をふりまく相手が多くて困りモノですワ(笑)。
Posted by スキップ at 2008年12月02日 01:11
♪cocoさま

昨夜、cocoさんのエントリを拝見して、旅先での素早いアップに驚くとともに、
途中で途切れているようにお見受けして、携帯の文字数制限の関係か?・・・
とぼんやり考えてコメントを控えておりましたが、そういうご事情だったのですね。
拙記事をリンクしていただきありがとうございます。
本当に、しばらくこの感動は心の中に留め置きたいと思っています。
そうですか。仁左衛門さんのお声はご健在でしたか。驚異のノドですね(笑)。
確かに「顔見世は歌舞伎の正月」であるならば、おめでたい笑いの要素も
入れていただきたいですね。
Posted by スキップ at 2008年12月02日 01:21
すごい感動的な勧進帳だったと思います。仁左衛門様のご精進の結果が判ります。
こんなステキな公演が一回きりとはもったいないですねぇ。できればまた聴きたいと思うのはどら猫だけではないはず。
観劇後はぶちぶち言ってましたが、やっぱり凄い舞台だったと家で反芻しながら考えてました。
Posted by どら猫 at 2008年12月02日 06:36
スキップさんとは観終わってすぐに顔を見合わせましたが、「勧進帳」ほんとに素晴しかったですね。
観劇前に東大寺のお話も伺ったりして、最近、勧進帳づいているスキップさんには感動もひとしおだったのではと思います。
私も幸四郎さんがちらつきつつ(笑)、仁左衛門さんが演じ分ける一つ一つの台詞に集中しました。こんなに真面目にじっくり長唄を聴いたのも初めてで、今後はきっと勧進帳の見方が変わると思います。
このような舞台の感動を共有できるって、ホントにうれしいですね♪
Posted by ムンパリ at 2008年12月02日 12:37
スキップさま、ホントにホントに素晴らしい一夜でした!
千之助くんの「雨の五郎」も微笑ましく一生懸命お稽古したんだよね、
と思いながら観てました。
そしてやっぱり何と言っても「聴く歌舞伎」!ってどんなものか
全く想像が出来なかったんですが(苦笑)、まさか床本(台本?)なしに
一人一人の台詞を、しかもそのお役になりきって・・・!
私にとってはとても幸せで贅沢な時間でした。
Posted by ハヌル at 2008年12月02日 22:37
♪どら猫さま

ほんとにすばらしい舞台でした。
以前、愛之助さんが「白浪五人男なら演ったことのない役でも全部台詞言えます」
とおっしゃっていたのを聞いたことがあって、「勧進帳」も特に立役の歌舞伎役者さん
は台詞はすべて入ってらっしゃると拝察いたしますが、あのように独演できるかと
なると、やはり日頃の精進がものを言うのでしょうね。
私もできることならもう一度聴きたいです。
Posted by スキップ at 2008年12月03日 03:38
♪ムンパリさま

そうそう、ムンパリさんとは席もお近くで、終演後最初に感動を分かち合いましたね。
ありがとうございました。

今年は4月に歌舞伎座で仁左衛門さんの弁慶を観て、私の「勧進帳」史上初めて泣いて、
10月には東大寺で幸四郎さんの1000回目の弁慶に立ち会うという幸運に恵まれ、
そして今回の聴く勧進帳の感動、と、私にとっては「勧進帳」元年ともいうべき年
となりました。
これが先日cocoさんのおっしゃってた「ある時目覚める」になったかどうかは
次に「勧進帳」を観る時にはっきりわかると思います(笑)。
Posted by スキップ at 2008年12月03日 03:50
♪ハヌルさま

千之助くんの曽我五郎も孝太郎さんの遊女も観ている間は「かわいい~」とか
「キレイ~」とか思っていたのですが、「勧進帳」ですべてぶっ飛びました(笑)。

私も観る(・・というか聴く)までは、あんな形で演じられるとは想像もつきませんでした。
観る前に「静かな朗読で寝ちゃったらどうしよ~」とお互いに心配していたのは全く杞憂でしたね(笑)。
本当にとても贅沢で濃密で幸せな時間でした。
Posted by スキップ at 2008年12月03日 03:58
私も行きたかったですが、皆さまのレポで楽しませていただきました!
本当すばらしかったようで・・・
四月の『勧進帳』を思い出しています(笑)
Posted by みゆみゆ at 2008年12月03日 21:22
♪みゆみゆさま

4月歌舞伎座の豪華配役の「勧進帳」すばらしかったですものね。
私も聴きながらあの仁左衛門さんの弁慶が何度も脳裏をよぎりました。
Posted by スキップ at 2008年12月04日 03:04
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