2008年10月22日

早駆ける足音

kanadehon.jpg足音を聞くだけで、こんなに胸がしめつけられるような思いにかられたのは初めてでした。

平成中村座十月大歌舞伎 
通し狂言 「仮名手本忠臣蔵」 Aプログラム
10月18日(土) 11:00am 浅草寺境内平成中村座 
1階21列下手

大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
三段目 足利館表門進物の場
      同 松の間刃傷の場
      同 裏門の場
四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
      同 表門城明渡しの場

出演: 中村勘三郎  中村橋之助  片岡孝太郎  中村勘太郎  中村七之助  坂東新悟  片岡亀蔵  坂東彌十郎  片岡仁左衛門 ほか


ABCプログラムを通じて、奇をてらったところはなく、とてもオーソドックスで力仕事の「仮名手本忠臣蔵」。AプロとCプロは開演5分前に人形口上が始まります。
「な~っかむら かんざぶろう」「な~っかむら はしのすけ」・・・と独特の調子で役名と役者の紹介が続き、最後の「大星由良之助 か~ったおか にざえもーん」でこの日一番の拍手。
その大星由良之助、登場するのは物語の終盤 四段目 塩冶判官切腹の場です。

お香の香りが漂う四段目。死装束を整えながら、「力弥 由良之助はまだか」「力弥 由良之助はまだか」と繰り返し尋ねる塩冶判官。「いまだ・・・」とうなだれる力弥。
もはやこれまで、と判官が九寸五分を腹に突き立てたまさにその刹那、姿はまだ見えぬままなれど、「ダダダダダッ」と聞こえてくる足音。その足音を聞いただけで、胸がしめつけられるように苦しく、鼻の奥がツ~ンとなって、すでに涙たらーっ(汗)

そして、まるで鳥屋から転がり出るように、いかにも全力疾走で駆けつけた態で登場する由良之助。その登場とともに場内の空気が一変するのが感じ取れて、ちょっと鳥肌立ちました。
苦しい息の下、判官が九寸五分を形見に与えると告げると「委細」とだけ応える由良之助。
言葉に出さずとも判官の無念を受けとめ、その無念をはらす固い決意を眼で伝える由良之助。
判官が息絶えた後、亡骸に着物を着せかけ、九寸五分を握りしめた手を慈しむように自分の両手で包み込み、指を1本1本解いていく由良之助。
ほとんどセリフはなくとも、表情の一つひとつ、仕草の一挙手一投足に主君への想いの深さが滲み出ていて、涙なくして観ることができませんたらーっ(汗)たらーっ(汗)

一転して評定の場では、血気にはやる藩士たちを向こうにまわして「恨むべきはただ一人」と一歩もひかぬ毅然とした由良之助。
藩士たちが去った後、門前に一人残り、形見の九寸五分についた判官の血を舐めて、凄まじい形相で仇討ちを誓う由良之助。
花道で平伏し明け渡した館とそこに宿る判官の魂に別れを告げ、幕外に一人残る由良之助。
三味線の調べだけが奏でられる中、ひと言も発さず万感の思いを込め、孤高なまでの雰囲気を醸し出して花道を引っ込む由良之助。

片岡仁左衛門の大星由良之助は、もしかしたら一般的な由良之助像とは少し違っているかもしれません。しかしながら、由良之助の人間としての器の大きさ、懐の深さ、判官への慈愛とも感じられるような忠義、その無念をはらそうとする強い意志、家内をまとめあげるカリスマ性、孤独感、そして存在感。その人物造形の一つひとつが実に説得力があって、とても魅力的な由良之助です。あの花道を駆け出してきた瞬間から最後の引っ込みまで、こんなにも由良之助を見つめ続けたのも初めてというくらい、視線は由良之助に釘付けでした。

対する中村勘三郎の塩冶判官がまたとてもよかった。
凛として品よく美しく、控え目な中にとまどいも無念もよく現われていて涙を誘います。こんな判官になら、由良之助だって他の家臣だって、忠節をつくしたくなるというものです。
とても丁寧に演じているという印象を受けましたが、プログラムのインタビューで、「自分の考えや工夫は一切入れず、細かく教わった通りにやります」「憧れのおじさん(尾上梅幸)に手取り足取り細かく教えていただいたんですから、あだや疎かにはできません」そして、「これをいかに確かに次の世代に伝えていくかが大事なんだと思っています」と語っていて、さすが一座の長として、今の歌舞伎を率いていく自負や気概を感じました。


Aプロは文化庁芸術祭参加ですのごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 397 わーい(嬉しい顔) vs 399 ふらふら)
posted by スキップ at 23:53| Comment(4) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
場面が浮かんでくるようなレポ!
拝見しながら、私にも早駆ける足音が聞こえてくるようでした!!
仁左衛門さんは、孝玉コンビでいらした頃より最近の方が断然、私には素敵に思えます。
ご子息・孝太郎さん共々、できるだけ舞台を目撃したところではありますが…。
万年チケット貧乏で、思うに任せません。
(涙)

皆様のレポを拝見して、せめても観た気持ちにさせていただきます!
素敵なご報告、ありがとうございました!!
(*^^*)
Posted by midori at 2008年10月23日 17:58
観れなかったAプロだけど、まるで観たような気分になることが出来ました。
舞台のいいところが伝わってくるレポありがとうございます。
観たかったなあ!でもCプログラムだけでも観れてよかったです。
Posted by 火夜(熊つかい座) at 2008年10月23日 23:43
♪midoriさま

こちらこそありがとうございます!
あの足音にはもう、完全にヤラレちゃって、今でも耳に残っています。
孝夫時代の仁左衛門さんも水もしたたる男っぷりでステキでしたが、
役者として、人間として深みを増した仁左衛門さんはほんとに
目が離せませんね。
ご活躍ぶりはうれしいですが、目を離さずに追いかける方は、
時間もお財布も大変ですよね~(笑)。
Posted by スキップ at 2008年10月24日 00:25
♪火夜さま

元々この四段目にはヨワイのですが、泣きました~(涙)。
今回の「仮名手本忠臣蔵」はどのプログラムも見どころたっぷりで
どれも観たくなって困ります。
Cプロの“本蔵編”もとてもよかったですよね。
東京に住んでたら立ち見とか利用してもう少し通えるのだけど。
Posted by スキップ at 2008年10月24日 00:31
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